一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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課題口演1
地域包括ケアシステム

2021年6月13日(日) 09:00 〜 10:15 Line A (ライブ配信)

[課題1-3] 嚥下訪問診療は地域高齢者の生活の質に良い影響を及ぼす-地域包括ケアにおける新たな歯科医療の役割-

○石井 美紀1、中川 量晴1、吉見 佳那子1、奥村 拓真1、長谷川 翔平1、山口 浩平1、中根 綾子1、戸原 玄1 (1. 東京医科歯科大学 摂食嚥下リハビリテーション学分野)

【目的】

地域包括ケアシステムでの歯科医療は,「食べること」や発話,表情による「コミュニケーション」を支える口腔機能の維持に貢献する。これまでに口腔機能,摂食嚥下機能が維持される高齢者は生活の質が高いことが分かっている。嚥下に関わる歯科訪問診療(以下,嚥下訪問診療)の需要が近年高まっているが,歯科訪問診療が高齢者の生活の質に及ぼす影響についての調査は不十分である。そこで,本研究では高齢者を対象に嚥下訪問診療と生活の質の関連を明らかにすることを目的とした。

【方法】

東京医科歯科大学から居宅や施設へ嚥下訪問診療を行った高齢者,または嚥下訪問診療を行っていない者でケアマネージャー等を介して研究の同意を得られた高齢者,計146名(男性53名,女性93名,平均年齢84.7±8.1歳)を対象とした。年齢,性別,生活場所(居宅/施設),嚥下訪問診療の有無,既往歴,離床時間,外出の有無を記録し,チャ―ルソン併存疾患指数を算出した。離床時間は0時間,0~4時間,4~6時間,6時間以上の4段階に分けた。日常生活動作の指標としてmRS(modified Rankin Scale)を用いた。摂食嚥下機能は機能的経口摂取スケールにて評価した。生活の質は短縮版QOL-D調査票(short QOL-D)を用いて陽性感情および陰性感情を総合的に評価した。嚥下訪問診療あり群となし群で生活の質に差があるか統計学的に検討し,交絡要因調整のためshort QOL-Dスコアを目的変数,上記の9項目を説明変数として重回帰分析を行った。

【結果と考察】

嚥下訪問あり群は63名(平均年齢82.7±8.4歳,女性32名),なし群は83名(平均年齢86.3±7.6歳,女性59名)であった。2群間でチャ―ルソン併存疾患指数,機能的経口摂取スケールの差はなかった。あり群はなし群と比較して有意に陰性感情の発現が少なく,総合的な生活の質が高かった。交絡要因調整の結果,生活の質は離床時間,mRS等の活動性の他に嚥下訪問診療の有無も関連を認めた。以上より,摂食嚥下機能に関わらず,嚥下訪問診療は高齢者の生活の支えになり,質を高めている可能性がある。地域包括ケアシステムでの歯科医療は,疾患の回復や機能向上のみでなく,自分らしく過ごすための一助となっている。

(COI 開示:なし)  (東京医科歯科大学 倫理審査委員会承認番号:D2018-015)