[O2-2] 頸椎前方固定術後に嚥下障害を認めた1例 -術前後における運動学的解析-
【目的】
頸椎手術の術後に嚥下障害が生じることが分かっている。しかし,頸椎手術の術前と術後の嚥下動態を比較した報告は少なく,術後嚥下障害の発生機構は明確でない。今回術前,術後1週後,3か月後に嚥下機能検査を実施することで,嚥下障害の原因を明らかにした。
【症例の概要と処置】
65歳,女性。既往歴は手根管開放術後,胆石症術後,高血圧,高脂血症であった。頸髄髄膜腫のため,2019年7月にC3-C5の頸椎後方除圧術,12月にC2-C5の頸椎前方固定術を行った。嚥下造影検査を前方固定術後の術前,術後1週後(以下POD7とする),3か月後(以下POM3とする)に実施した。Dippmotion(ディテクト社)を用いて嚥下造影検査の画像を解析し,濃いトロミ4ccを嚥下した時の舌骨運動量,UES開大量および咽頭後壁の厚みを記録した。
【結果と考察】
POD7は液体にて誤嚥を認めた。顕性誤嚥であったため,一口量の制限の指導をした。POM3は検査時に誤嚥,喉頭侵入ともに認めなかった。舌骨の前方,上方運動量について術前(前方:9.5mm,上方:11.5mm)と比較して,POD7は両者ともに減少した(前方:7.0mm,上方:8.8mm)。POD7と比較してPOM3では上方運動量は改善し,前方運動量は変化なかった(前方:6.9mm,上方:10.6mm)。咽頭後壁の厚みについて術前(4.3mm)と比較して,POD7では増加(12.6mm)したが,POM3は術前の厚みまで改善(4.6mm)した。UES開大量は術前(4.6mm)と比較し,POD7(4.4mm),POM3(5.2mm)ともに著変はなかった。舌骨運動を担う舌骨上筋群へ直接的な侵襲はないが,術後の浮腫等に起因する舌下神経障害により舌骨運動が制限された可能性がある。また,咽頭後壁の浮腫により咽頭収縮が低下するという報告があり,嚥下障害の一因となったと考えられる。舌骨前方運動の制限によりUES開大が制限される報告があるが,本症例では合致しなかった。本症例は頸椎前方固定術後の一過性の嚥下障害であり,術後3か月後には舌骨上方運動量の回復と咽頭浮腫の改善に伴い嚥下障害の改善を認めた。そのため,嚥下障害の経過を適切に追うには術前後の舌骨運動量の測定や咽頭浮腫を診ることが重要と考えられる。
東京医科歯科大学歯学部倫理審査委員会承認番号 D2019-004
頸椎手術の術後に嚥下障害が生じることが分かっている。しかし,頸椎手術の術前と術後の嚥下動態を比較した報告は少なく,術後嚥下障害の発生機構は明確でない。今回術前,術後1週後,3か月後に嚥下機能検査を実施することで,嚥下障害の原因を明らかにした。
【症例の概要と処置】
65歳,女性。既往歴は手根管開放術後,胆石症術後,高血圧,高脂血症であった。頸髄髄膜腫のため,2019年7月にC3-C5の頸椎後方除圧術,12月にC2-C5の頸椎前方固定術を行った。嚥下造影検査を前方固定術後の術前,術後1週後(以下POD7とする),3か月後(以下POM3とする)に実施した。Dippmotion(ディテクト社)を用いて嚥下造影検査の画像を解析し,濃いトロミ4ccを嚥下した時の舌骨運動量,UES開大量および咽頭後壁の厚みを記録した。
【結果と考察】
POD7は液体にて誤嚥を認めた。顕性誤嚥であったため,一口量の制限の指導をした。POM3は検査時に誤嚥,喉頭侵入ともに認めなかった。舌骨の前方,上方運動量について術前(前方:9.5mm,上方:11.5mm)と比較して,POD7は両者ともに減少した(前方:7.0mm,上方:8.8mm)。POD7と比較してPOM3では上方運動量は改善し,前方運動量は変化なかった(前方:6.9mm,上方:10.6mm)。咽頭後壁の厚みについて術前(4.3mm)と比較して,POD7では増加(12.6mm)したが,POM3は術前の厚みまで改善(4.6mm)した。UES開大量は術前(4.6mm)と比較し,POD7(4.4mm),POM3(5.2mm)ともに著変はなかった。舌骨運動を担う舌骨上筋群へ直接的な侵襲はないが,術後の浮腫等に起因する舌下神経障害により舌骨運動が制限された可能性がある。また,咽頭後壁の浮腫により咽頭収縮が低下するという報告があり,嚥下障害の一因となったと考えられる。舌骨前方運動の制限によりUES開大が制限される報告があるが,本症例では合致しなかった。本症例は頸椎前方固定術後の一過性の嚥下障害であり,術後3か月後には舌骨上方運動量の回復と咽頭浮腫の改善に伴い嚥下障害の改善を認めた。そのため,嚥下障害の経過を適切に追うには術前後の舌骨運動量の測定や咽頭浮腫を診ることが重要と考えられる。
東京医科歯科大学歯学部倫理審査委員会承認番号 D2019-004