The 32nd Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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口腔内環境を見える化する―細菌カウンタの臨床応用のすすめー

Sat. Jun 12, 2021 3:30 PM - 4:20 PM Line C (ライブ配信)

[SS3] 口腔内環境を見える化する―細菌カウンタの臨床応用のすすめー

○菊谷 武1 (1. 日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック)

【略歴】
菊谷 武  
日本歯科大学 教授
口腔リハビリテーション多摩クリニック 院長
大学院生命歯学研究科 臨床口腔機能学

1988年 日本歯科大学歯学部卒業
2001年10月より 附属病院 口腔介護・リハビリテーションセンター センター長 
2005年4月より助教授
2010年4月 教授
2010年6月 大学院生命歯学研究科臨床口腔機能学教授
2012年1月 東京医科大学兼任教授
2012年10月 口腔リハビリテーション多摩クリニック 院長

【著書】
『誤嚥性肺炎を防ぐ安心ごはん』女子栄養大学出版
『歯科と栄養が出会うときー診療室からはじめるフレイル予防のための食事指導』医歯薬出版
『あなたの老いは舌から始まる』NHK出版
『ミールラウンド&カンファレンス』医歯薬出版
『チェサイドオーラルフレイルの診かた』医歯薬出版
高齢者の誤嚥性肺炎予防に口腔ケアが有効であると言われて久しい。口腔ケアは、肺炎のメカニズムに相当する「口腔・咽頭の細菌叢」を改善し、「誤嚥」を防止し、そして「個体(患者)の抵抗力」を強化する役割が期待される。特に、特に「口腔・咽頭の細菌叢」を改善する感染源対策としての効果は大きい。しかし、これまで、口腔ケアをすることに効果が認められていても、“いつ”、“どのように”するかの論議が進まない。この原因の一つに口腔ケアの効果である口腔内環境の改善を客観的に示せていないことが挙げられる。誤嚥性肺炎の発症や重症化リスクは、微生物の量と質によって決定づけることができる。これまで微生物の量を定量する際には、計数盤法、濁度法、透過率測定法、コロニーカウント法が用いられてきた。しかし、いずれも臨床家が迅速に測定できるものはない。

近年、ベットサイドで簡易にかつ迅速に細菌数を測定可能な「細菌カウンタ」がパナソニック株式会社から発売され、さらに、本年1月に、医療機器(微生物定量分析装置)として認可された。開発された本機器は誘電泳動とインピーダンス計測によるDEPIM(DiElectroPhoretic Impedance Measurement)法を応用した測定機器である。

本装置による評価と培養法および蛍光染色フィルタ法との相関は有意に高いことが示されている。本装置は、キット化されており、専用の試料液および電極チップを装置にセットしてボタンを押す操作のみで測定が開始され、数分後に測定結果が表示される。

私たちは、肺炎発症に対する口腔内細菌数の関与を明らかにする目的で、691名の施設入居者の唾液中の細菌数を測定し、6か月間追跡調査を行った。その結果、唾液1mlあたり108.5乗個以上の細菌数を有する者の者において肺炎発症のリスクは3.8倍となった。この結果は、ベットサイドで微生物の量の測定を客観的かつ迅速に測定することによって口腔内の汚染状況が即時に見える化し、口腔ケアプランの策定、ケアによる効果の確認などが即座に実施できることに応用できると考えている。

本装置の利用により様々な場面での応用が考えられる。歯科医院では、プラークコントロールの評価を本法で可能と考える。また、口腔機能低下症の診断の一つである「口腔不潔」の診断においても有用であろう。施設における口腔ケアの支援にも適している。施設における日常の口腔ケアは介護、看護スタッフが担うことから、対象者の口腔内環境を維持するためには, 効率的かつ効果的な方法の提案が必要となる。本装置による口腔内細菌数の測定は、口腔内の環境の客観的なデータを与えることになり、口腔ケアにPDCAサイクルを回すことにつながる。介護予防においては、参加者に口腔衛生に関する行動変容を起こすことが重要である。病態など影響する検査結果を参加者に示すことで行動変容が得られる。