一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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シンポジウム3
ウィズ・コロナにおける新しい在宅歯科医療のあり方〈指〉〈日〉

2021年6月12日(土) 15:00 〜 16:30 Line B (ライブ配信)

座長:佐藤 裕二(昭和大学歯学部高齢者歯科学講座)、小玉 剛(公益社団法人 日本歯科医師会)

[SY3-1] 「歯科訪問診療における感染予防策の指針 2021年版」策定の経緯と目的

○猪原 健1 (1. 敬崇会 猪原歯科・リハビリテーション科)

【略歴】
2005年 東京医科歯科大学歯学部卒業
2009年 同大学院顎顔面補綴学分野修了、博士(歯学)
2010年 日本大学歯学部摂食機能療法学講座 非常勤医員
2010~2011年 カナダ・アルバータ大学リハビリテーション学部言語聴覚療法学科Visiting Professorとして留学
2011年 医療法人社団敬崇会 猪原歯科医院(現 猪原歯科・リハビリテーション科)副院長
2015年 社会医療法人祥和会 脳神経センター大田記念病院に歯科を立ち上げ、非常勤歯科医としても勤務
2020年 敬崇会 猪原歯科・リハビリテーション科 理事長
2021年 グロービス経営大学院経営研究科修了、経営学修士(専門職)
その他現在、東京医科歯科大学大学院ならびに口腔保健学科、岡山大学大学院 非常勤講師
日本在宅医療連合学会評議員、全国在宅療養支援歯科診療所連絡会理事など
2020年初から我が国において流行が始まった新型コロナウイルス感染症(以下、Covid-19)は、唾液を含む上気道からの飛沫により感染することから、上気道の一部である口腔を取り扱う診療科である歯科も対応を迫られた。特にCovid-19は、感染した高齢者の死亡率が高いこと、そして在宅歯科医療においては十分な感染対策を講じることが難しいことなどから、多くの歯科診療所が対応に苦慮することとなった。4月に入り、1回目の緊急事態宣言が首都圏をはじめとする地域に発出され、また各地の介護施設などでクラスター感染が報告されるようになると、個人用防護具が不足し始め、診療の縮小や休止を余儀なくされる歯科診療所も現われるようになり、演者も同様の措置を取らざるを得ない状況となった。また施設によっては、歯科訪問診療の受け入れを停止とするところも存在した。
 そのような中、日本在宅医療連合学会において、歯科の内容を一部含む在宅医療における感染対策集をまとめることとなり、「在宅医療における新型コロナウィルス感染症対応Q&A」(以下、Q&A集)として6月に公表された。また併せて同学会の第2回学術集会内「新型コロナウイルス感染症対策特別企画シンポジウム1 在宅歯科医療における新型コロナウイルス感染対策のための提言作成に向けて」において、日本老年歯科医学会、日本障害者歯科学会、日本歯科医師会の各会からシンポジストが登壇し、歯科訪問診療の差し控えによる口腔環境の著しい悪化などがみられたケースが存在したこと等が報告された。それを踏まえ、①在宅歯科医療にフォーカスをあてたガイドラインの策定が急務であること、➁策定にあたっては医科・歯科や学会の枠を超え英知を結集して行う必要があること、➂またその際には日本在宅医療連合学会として協力を惜しまないこと、等が議論された。
 これを受けて日本老年歯科医学会では、在宅歯科医療委員会を中心として、歯科訪問診療における感染予防策の指針の策定に向けて議論を行ってきた。この中では、いわゆる狭義の歯科訪問診療における感染対策にとどまらず、協力歯科医療機関等として関わっている介護施設等においてクラスター感染が発生した際の、施設職員に対する口腔ケア支援のあり方等についてもディスカッションを行い、記載を行っている。これは日本在宅医療連合学会Q&A集の表現に準じ「逆タスクシフト」と称しているが、通常時であれば介護職員が行うケアを、クラスター感染発生時など感染リスクが高い状況においては、感染対策の知識と経験値の高い医療職が代行して実施し、感染拡大を防ぐ目的のものである。
 Covid-19は、なかなか収束を見通せない状況が続いている。本指針が、歯科訪問診療の安全な実施に寄与することを期待している。