一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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シンポジウム7
地域歯科医療シンポジウム:COVID-19 で語ろう〜どう高齢者を支えるのか〜〈指〉〈日〉

2021年6月13日(日) 15:40 〜 17:00 Line A (ライブ配信)

座長:糸田 昌隆(大阪歯科大学)、平野 浩彦(東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科)

[SY7-3] 訪問病院でのクラスター経験 -地域コミュニティCOVID-19対応の立場から-

○木村 年秀1 (1. まんのう町国民健康保険造田歯科診療所)

【略歴】
昭和61年  岡山大学歯学部 卒業
      同年  岡山大学歯学部 予防歯科学講座 助手
平成3年  島根県美都町国保歯科診療所 所長
平成8年  三豊総合病院 歯科保健センター 医長 
平成24年          同       センター長
平成27年~ まんのう町国民健康保険造田歯科診療所 所長

【現職】
まんのう町国民健康保険造田診療所 所長  
岡山大学歯学部 臨床教授  

【学会】
日本老年歯科医学会(専門医,指導医,代議員)  
日本口腔衛生学会(認定医,代議員)
日本プライマリ・ケア連合学会(代議員)
昨年末,当診療所が定期的に訪問診療を行っている回復期リハビリテーション病院で,当時としては県内で最大のクラスターが発生した(最終2021年1月15日までに87名)。私たちが診療していた患者も陽性が確認されたため,接触者としてPCR検査を受けた。陰性であったものの,訪問診療や歯科衛生士による口腔のケアを行っていた他施設からは訪問を中止してほしいとの連絡があった。クラスター発生病院では最終感染者確認から約1か月後より訪問開始となったが,歯科診療や口腔のケアが約2か月間中断していた新型コロナウイルス感染患者は明らかに認知機能が低下して別人のようでもあり驚いた。口腔状況は義歯不調により食事に支障をきたしていたり,歯周炎が著しく進行し歯肉より自然出血がみられる者もおり,ウイルス感染による歯科医療の中断で急激に口腔環境が悪化することを実感した。
首都圏や京阪神など大都市部では,COVID-19拡大によりクラスターが多発し,患者数の減少や高齢者施設での訪問診療の制限など歯科診療にも多大な影響がみられている。一方,我々のような中山間地においては感染者数がいないものの,高齢者が都会の報道を視聴して恐怖を感じ,過度の受診控えや外出制限する姿がうかがえた。また,いったん近隣で感染者が出ると在宅医療の現場は混乱し,事業所間での情報共有が困難となる。日ごろからの信頼を基盤とする連携体制の重要性を痛感したが,このような状況下でもICT(在宅医療介護多職種連携ツール)を活用したことで,さらにきめ細やかな情報交換が可能となり利用者の家族にとっても満足のいく終末期看取りケースを経験することもできた。COVID-19拡大があったから在宅チームの絆が強くなれたのかもしれない。
医療人材育成についてもCOVID-19拡大により,地域での学生実習などが制限され,歯学医師,歯科衛生士,看護師の養成学校の最終学年で実施されるはずであった在宅訪問実習が中止になった。それでも在宅実習の代替方法を大学と当地区の専門職で協議し,在宅医療介護現場のビデオ動画を地元YouTuberが制作し教室で視聴する,当地区と大学をオンラインでつなぎ,学生と専門職や地域ボランティアが意見交換する場を設定するなどの工夫をすることで一定レベルの実習を提供することができた。ビデオ学習は現場の実習では見逃してしまいそうな場面を解説付きで繰り返し学ぶことができるなどのメリットも多いが,やはり地域の人に会いたかったということが学生たちの本音のようであった。
COVID-19拡大で上部だけの連携は脆く崩れ,本物だけが残る。地域医療の在り方を問われたと思っている。