[認定P-03] 認知症,パーキンソン病,脳梗塞後遺症を有する高齢者の咀嚼障害に対して歯科訪問診療を行った症例
【緒言】
高齢者は,口腔機能や口腔衛生に影響を及ぼす複数の疾患に罹患することが多い。要介護高齢者にとっても,食事は大切な生活の楽しみであるが,全身や口腔の疾患に起因する様々な問題によって,食事を十分に楽しめないことも多い。そこで本症例では,施設入所中の要介護高齢者に対して,基礎疾患や生活環境を考慮し,抜歯や義歯治療,食支援を含めた包括的な歯科訪問診療を行い,咀嚼機能と食べる楽しみを回復した一例を経験したので報告する。
【症例】
患者は76歳の男性,「入れ歯がないので噛んで食べたい」という主訴で訪問診療にて受診した。既往歴に心房細動,高血圧があり,脳梗塞を発症した後,認知症(病型不明),パーキンソン病の進行もあり在宅生活困難となり,施設に入所した(要介護4)。口腔の著明な運動障害は認めなかったが,多数の残根と動揺歯,多量のプラー ク付着を認め,上下顎義歯は紛失し,すれ違い咬合であった。食形態はソフト食で,食事と口腔ケアは自立していた。本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【経過】
咀嚼障害と診断し,口腔清掃指導を行った後,保存困難歯を医科対診後に抜歯し,1か月後に上下顎新義歯を装着した。義歯の設計や患者指導には,手指の巧緻性や認知機能低下を考慮し,また,義歯着脱や口腔ケアはケアワーカーにも支援を依頼した。義歯調整完了後には,咀嚼を要する食事の摂食場面の観察を行い,施設と相談の上で,食形態を段階的に常食に改善したことで患者の満足感を得ることができた。5か月後に右下臼歯部が歯根破折し,抜歯と義歯修理を行ったが,その後も良好に経過しており,患者の食べる楽しみを保つために,定期的に口腔管理と食事管理を行っている。
【考察】
本症例では,基礎疾患や居住環境を考慮した上で,抜歯や義歯新製作などの歯科治療,食事場面観察による食支援,施設職員との連携を包括的に行うことで,患者の主訴を改善できたと考えられた。また,口腔衛生や義歯管理については,プラークが貯留しにくい口腔内に改善すること,口腔清掃指導を本人と施設職員に行うことで, 自立支援も考慮しながら対応した。進行性疾患であることを考慮すると,今後も咀嚼機能や嚥下機能,生活機能を評価した上で,口腔管理と食支援を行う必要があると考えられた。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)
高齢者は,口腔機能や口腔衛生に影響を及ぼす複数の疾患に罹患することが多い。要介護高齢者にとっても,食事は大切な生活の楽しみであるが,全身や口腔の疾患に起因する様々な問題によって,食事を十分に楽しめないことも多い。そこで本症例では,施設入所中の要介護高齢者に対して,基礎疾患や生活環境を考慮し,抜歯や義歯治療,食支援を含めた包括的な歯科訪問診療を行い,咀嚼機能と食べる楽しみを回復した一例を経験したので報告する。
【症例】
患者は76歳の男性,「入れ歯がないので噛んで食べたい」という主訴で訪問診療にて受診した。既往歴に心房細動,高血圧があり,脳梗塞を発症した後,認知症(病型不明),パーキンソン病の進行もあり在宅生活困難となり,施設に入所した(要介護4)。口腔の著明な運動障害は認めなかったが,多数の残根と動揺歯,多量のプラー ク付着を認め,上下顎義歯は紛失し,すれ違い咬合であった。食形態はソフト食で,食事と口腔ケアは自立していた。本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【経過】
咀嚼障害と診断し,口腔清掃指導を行った後,保存困難歯を医科対診後に抜歯し,1か月後に上下顎新義歯を装着した。義歯の設計や患者指導には,手指の巧緻性や認知機能低下を考慮し,また,義歯着脱や口腔ケアはケアワーカーにも支援を依頼した。義歯調整完了後には,咀嚼を要する食事の摂食場面の観察を行い,施設と相談の上で,食形態を段階的に常食に改善したことで患者の満足感を得ることができた。5か月後に右下臼歯部が歯根破折し,抜歯と義歯修理を行ったが,その後も良好に経過しており,患者の食べる楽しみを保つために,定期的に口腔管理と食事管理を行っている。
【考察】
本症例では,基礎疾患や居住環境を考慮した上で,抜歯や義歯新製作などの歯科治療,食事場面観察による食支援,施設職員との連携を包括的に行うことで,患者の主訴を改善できたと考えられた。また,口腔衛生や義歯管理については,プラークが貯留しにくい口腔内に改善すること,口腔清掃指導を本人と施設職員に行うことで, 自立支援も考慮しながら対応した。進行性疾患であることを考慮すると,今後も咀嚼機能や嚥下機能,生活機能を評価した上で,口腔管理と食支援を行う必要があると考えられた。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)