一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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認定医審査ポスター4

2022年6月10日(金) 15:15 〜 16:45 認定医審査ポスター4 (りゅーとぴあ 2F スタジオAホワイエ)

[認定P-19] 上顎癌切除術後の顎欠損を有する高齢者対し顎補綴を使用して機能回復をはかった症例

○林 皓太、髙橋 浩二 (昭和大学歯科病院口腔リハビリテーション科)

【緒言】
上顎癌切除術後患者において顎欠損による鼻咽腔閉鎖機能不全,摂食嚥下・構音機能障害は多く認める。今回上顎癌切除術後による広範囲な顎欠損を有する高齢者患者に対し,顎義歯作製及び摂食嚥下訓練を行い,良好な結果を得た症例を経験したので報告する。
【症例】
85 歳,男性。身長165.9㎝,体重56.9kg,BMI 20.6,顎補綴装置の作製依頼にて当科受診。 既往歴:狭心症, 高血圧,糖尿病,高脂血症。現病歴:2018年12月左側上顎癌(T4aN0M0) に対し,切除術および上唇再建術を施行した。口腔内状態は上顎左側に正中を超える広範囲な上顎骨の実質欠損を認めた。初診時の評価では, シーネ装着下でピークフロー平均150ℓ/min(基準値:498),舌圧測定不能(顎欠損のため),嚥下造影検査にて全粥・ペースト食の嚥下は可能であった。しかし,胃瘻による栄養管理を本人は受容し,経口摂取の希望はなかった。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【経過】
初診時の評価より上顎顎義歯作製および摂食嚥下訓練を立案した。上顎顎義歯の作製を行ったが,鼻唇溝皮弁による再建術により口腔形態が変化したため,顎義歯を再作製した。また,就寝時の口腔乾燥の訴えに対し鼻腔口腔交通を遮断する目的で上顎マウスピースを作製した。1年後には顎義歯装着下でピークフロー平均330ℓ/min, 平均舌圧は(舌尖10.4N舌中央9.6N),BMI 21.8に改善した。改訂水飲みテスト5点であるが,胃瘻からの栄養確保は継続し,本人と相談のもと直接訓練として毎食ゼリー状食品を経口摂取している。マウスピースの装着により口腔乾燥感は軽減し,現在まで使用を続けている。
【考察】
顎欠損部が大きく,顎義歯作製が困難な症例であった。顎欠損周囲の残存周囲組織のアンダーカットを利用することで顎義歯が安定し、機能向上を得られたと考えられた。また,起床時の口腔乾燥は鼻腔口腔交通を遮断する上顎マウスピースにより改善を認めた。直接訓練の継続により食への意欲が向上したため,今後は咀嚼訓練を行いながら食形態の向上を目指していく予定である。(COI開示:なし)(倫理審査対象外)