一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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認定医審査ポスター4

2022年6月10日(金) 15:15 〜 16:45 認定医審査ポスター4 (りゅーとぴあ 2F スタジオAホワイエ)

[認定P-23] 高齢患者に対して新義歯製作および口腔機能に応じた指導により機能回復を図った一症例

○岸本 卓大1、市川 哲雄2 (1. 徳島大学大学院医歯薬学研究部歯科放射線学分野、2. 徳島大学大学院医歯薬学研究部口腔顎顔面補綴学分野)

【緒言】
 高齢の義歯装着者において噛みにくいという症状は,義歯の問題だけでなく筋力低下や粘膜性状など様々な要因を考慮する必要がある。今回患者の口腔機能の状況を把握した上で旧義歯の問題を修正し,機能低下に応じた指導を行い,良好な機能回復が得られたので報告する。

【症例】
 81歳,女性。義歯が落ちやすい,痛くて固いものが噛みにくいことを主訴に来科した。下顎の顎堤には著明な吸収と粘膜の菲薄化を認めた。上下顎全部床義歯が装着されており,人工歯の摩耗,咬合平面と人工歯の排列不正を認めた。また下顎義歯はレトロモラーパッドが被覆されておらず義歯の動揺が大きかった。口腔機能検査の結果,TCIによる口腔衛生状態が72 %,ムーカスによる口腔湿潤度が25.4,デンタルプレスケールⅡによる咬合力が60.3 Nと基準値を下回っており,摂取可能食品アンケートによる咀嚼スコアは55.9点,OHIP J-54による口腔関連QOLは79点であった。診査の結果,口腔機能低下症,義歯不適合による咀嚼障害と診断した。なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得た。

【経過】
 旧義歯の問題点を踏まえ,通法通り新義歯製作を行なった。また口腔乾燥を認め,唾液の自浄作用の低下,唾液粘着力による義歯の維持力が低下しやすいため,必要に応じて口腔保湿剤を義歯粘膜面に貼付し装着するよう指導した。舌苔の付着に対して誤嚥性肺炎のリスクを説明し舌ブラシによる口腔清掃を指導した。また顎堤粘膜の負担能力が低い状態を説明し,摂取しやすい食形態にする,一口量を減らす,ゆっくり咀嚼する等の食事指導を行なった。新義歯装着6ヶ月後の検査では,口腔衛生状態が50 %,口腔湿潤度は26.1,咬合力は208.3 N,グミゼリーによる咀嚼能力検査は左側 123 mg/dL,右側128 mg/dLであった。食事指導により咀嚼スコアは98.2点, 口腔関連QOLは5点となり,機能の改善と高い患者満足度も得ることができた。

【考察】
 本症例は義歯の問題に加えて,顎堤の著明な吸収,粘膜の菲薄化と口腔乾燥が原因と考えた。そのため患者自身に口腔機能の現状を理解させた上で,新義歯製作,負担能力に応じた食事指導や口腔保湿剤の使用により機能回復,患者のQOL向上に寄与できたと考える。今後も継続的な義歯の管理,口腔機能の維持に努めていく予定である。
(COI開示:なし)(倫理審査対象外)