一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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認定医審査ポスター4

2022年6月10日(金) 15:15 〜 16:45 認定医審査ポスター4 (りゅーとぴあ 2F スタジオAホワイエ)

[認定P-24] 咀嚼・嚥下障害がある舌がん高齢患者に対し義歯を製作し口腔機能が改善した症例

○大野 愛莉、戸原 玄 (東京医科歯科大学摂食嚥下リハビリテーション学分野)

【目的】
舌がん術後は舌の可動域や機能が低下し,口腔期の摂食嚥下障害をきたしやすい。また不適合義歯の使用は咀嚼障害の要因となるため,術後の口腔機能および義歯の評価が重要である。今回,舌部分切除術後の患者に上下義歯を新製し咀嚼・嚥下障害が改善した症例を報告する。

【症例の概要と処置】
90歳女性。既往歴に高血圧症,大動脈閉鎖不全症,腹部大動脈瘤,右脚ブロックがあるが,いずれもコントロール良好である。88歳で右側舌縁に白斑を認め,他院で「classⅢの炎症性反応」と診断され経過観察していた。その後89歳で右側舌癌と診断され,本学口腔外科で舌部分切除術を施行した。術後,義歯不適合と食事のしにくさを主訴に当科を受診した。上顎は総義歯,下顎は部分床義歯を使用中で,下顎義歯右側床縁は小さく削合され臼歯部が覆われていなかった。初診時の嚥下機能評価では,水分,固形物ともに誤嚥なく摂取可能であり, 咽頭への送り込みも可能であったが咀嚼に時間を要した。舌圧21kPa,グルコセンサーによる咀嚼能率評価78mg/dLで, 義歯不適合と舌機能低下による咀嚼障害と診断した。
追加治療終了後に義歯新製を開始した。舌が右側に偏位し,咀嚼時に舌を噛みやすいことが問題であった。咬合調整および人工歯を形態修正し,舌の回避スペースを設けたことで症状は改善した。しかし義歯完成後1か月の咀嚼能率評価は39mg/dLで旧義歯の記録を大きく下回った。義歯形態の違和感や噛みにくさの訴えがあり,舌形態に合わせた形態調整および咬合調整を継続した。また舌の運動制限に対し機能訓練を指導した。完成後3か月,咀嚼能率評価106mg/dLで機能改善を認めた。舌圧は24kPaで維持された。また食事時間は40分から30分に短縮, 疲労感が軽減したと報告があった。本報告の発表について患者から同意を得ている。

【結果と考察】
舌切除後の機能障害に加え,不良義歯が咀嚼機能を低下させる要因であった。義歯形態の大幅変更が必要だったため,新義歯に慣れるまでに調整と時間を要したが,舌圧やグルコセンサーによる口腔機能の客観的評価により結果を可視化し患者にフィードバックできた。また術後廃用予防に対し舌機能訓練の継続は必須である。口腔癌術後は口腔器官の形態変化が口腔・嚥下機能に影響するため,適切な評価と早期の対応が求められると考えた。
COI 開示:なし 倫理審査対象外