一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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認定医審査ポスター5

2022年6月10日(金) 15:15 〜 16:45 認定医審査ポスター5 (りゅーとぴあ 2F スタジオAホワイエ)

[認定P-26] 慢性心不全を有する余命半年の肺癌患者への歯科治療を行った症例

○朝比奈 滉直、小笠原 正 (松本歯科大学大学院健康増進口腔科学講座口腔健康政策学分野)

【緒言】
 慢性心不全患者の歯科治療時には十分な配慮を要する。さらに末期癌であれば治療方針に苦慮することがある。 今回, 慢性心不全及び末期の肺癌患者に対し,終末期のQOLを考慮して歯科治療を行ったので報告する。本報告について代諾者より文書にて同意を得ている。
【症例】
 84歳男性。「左上が疼いて食事し難い」を主訴にX年7月2日初診。現症として上顎は高度顎堤吸収による残根上義歯の維持力低下,不適合を認め,24,25番は残根,打診痛を認めた。問診にて慢性心不全(大動脈弁逆流症, 冠動脈狭窄),右肺癌(生命予後半年)の既往を聴取した。METs表より運動耐用能はNYHA Ⅱ~Ⅲ度と評価し,心電図検査より多源性心室性期外収縮を認めた。主治医に疾患,投薬内容,現在の状態,今後の見通しを照会したところ,コントロール不良にて急性増悪を繰り返しているとのことであった。
【経過】
 24,25番う蝕症4度,上顎義歯不適合と診断。治療方針として生命予後半年のため,今後のQOLを考慮し, 24,25番抜歯,義歯修理・調整を優先した。7月23日に抜歯を行った。処置内容として抗菌薬を処置1時間前に内服させ,術直前のバイタル評価にて歯科治療中止基準外であることを確認し,抜歯術に移行した。術中は基礎疾患増悪にならぬよう無痛的処置に配慮し,60%リドカインテープを用いた表面麻酔後に浸潤麻酔を行った。局所麻酔薬はキシロカイン®1.6mlとシタネスト®1.8mlを使用した。抜歯後止血確認し,処置終了とした。術中に期外収縮を認めたが,特に問題にならなかった。7月25日に予後観察し,8月30日に適合,維持力向上のため義歯裏層を行った。以後,来院の負担を考慮し,問題あれば義歯調整する旨を説明し,終了とした。後日経過を確認した際,問題なく使用できているとのことであったが,基礎疾患増悪により入院され,Y年1月14日に亡くなられた。
【考察】
 慢性心不全患者の歯科治療の際,全身疾患を把握し,処置可能か判断する必要がある。時には内科治療を優先し,歯科治療を延期することもある。しかし本症例は末期癌のため,今後のQOLを考慮し,歯科治療を優先した。処置中は基礎疾患の増悪を防ぐため,術前の一般状態評価のうえ無痛的歯科治療に努めた。その結果,特に問題なく処置を終えることができ,QOLの向上に貢献できたと考える。(COI開示:なし)(倫理審査対象外)