The 33rd Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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ランチョンセミナー

共催セミナー » [ランチョンセミナー3] サクサク!パリパリ!もぐもぐ!『食べる』豊かさと生きる質

ランチョンセミナー3
サクサク!パリパリ!もぐもぐ!『食べる』豊かさと生きる質

Sat. Jun 11, 2022 12:30 PM - 1:30 PM 第3会場 (りゅーとぴあ 2F スタジオA)

座長:上田 貴之(東京歯科大学老年歯科補綴学講座 教授)

共催:株式会社クリニコ

[LS3] サクサク!パリパリ!もぐもぐ!『食べる』豊かさと生きる質

○長谷 剛志 (公立能登総合病院 歯科口腔外科)

【略歴】
2001年:北海道医療大学 歯学部 卒業
2006年:金沢大学大学院 医学系研究科 修了 医学博士
2009年:公立能登総合病院 歯科口腔外科 医長
2015年:同 部長
金沢大学大学院医薬保健学総合研究科外科系医学領域顎顔面口腔外科学分野 非常勤講師
「食力の会」代表

【資格】
日本口腔外科学会 専門医
日本口腔科学会 認定医・指導医
日本老年歯科医学会 認定医・指導医・摂食機能療法専門歯科医師

【受賞歴】
2001年:デンツプライ賞
2006年:日本口腔腫瘍学会 学会賞
2007年:日本口腔科学会 優秀論文賞
2015年:全国国保地域医療学会 優秀研究賞
2019年:日本口腔科学会 学会賞 など

【特許】
特許 第6901724号 食事観察サポートソフト「い~とみる」
【抄録】
「空腹は最高の調味料である」というアフォリズムがあります。通常、食べるという行為は空腹感やネガティブ感情によって惹起されることが多く、食べることによって強い快の感情を得ることができます。この快の感情は、食生活や食習慣の経験に依存するため個人差が大きいと言われます。つまり、何を食べたら心理的満足が得られるかは、人によって違えば、その時の体調や気分によっても異なるというわけです。ただ、一つ言えることは、食べた時に「おいしい」と感じなければ、快の感情を得ることはできません。たとえ、空腹や栄養を満たすことはできたとしても、さらに食べたいという意欲にはつながらず、食べる楽しみや喜びは実感できないでしょう。
そこで、大切になるのが「食感」です。「食感」とは、食物を摂取したときに感じる五感のうち、歯や舌を含む口腔内の感覚を示します。具体的には、歯ごたえ、舌触り、喉ごしなどがこれに相当し、味覚など他の感覚とともに「おいしさ」を構成するうえで重要な要素です。人体の感覚は味覚・嗅覚・視覚・聴覚からなる特殊感覚と体性感覚に分けられ、「食感」は体性感覚として知覚されます。食物の味や匂いなど化学的刺激であるフレーバーに対し、固さや粘性・付着性はテクスチャとも呼ばれます。例えば、麺類の腰(こし)、煎餅やビスケットの固さ、肉類などの噛みごたえは、食べることによって得られる心理的満足度を大きく左右します。
人間は、これら様々な「食感」を食べることより体得し、オノマトペとして表現します。「サクサク」、「コリコリ」、「パリパリ」、「もちもち」など日本語には、なんと445語の「食感」表現があると報告されています。世界に目を向けても英語は77語、中国語は144語、フランス語でも227語しか存在せず、日本人の食に対する繊細さと敏感な口腔感覚の裏付けと考えられます。
一方、時代とともに「食感」表現は変化しており、50年ほど前によく使われていた「ごりごり」「スカスカ」という表現は、現在、あまり使われなくなりました。食材の生産・調理加工の技術進歩や食の欧米化、単調化により、そういう食材に出会う機会が少なくなったからでしょう。そして、最近では、若い人たちはおいしいことを『やばい』と言い、そうでもないものを『微妙』と表現することもあります。おいしいと感じた時の表現が全部『やばい』とは悲しいことです。また、食事は口腔機能にも大きく関わり、加齢による口腔機能の低下から繊細な「食感」を感じることができなくなると生きる質の低下につながることも懸念されます。
今回のランチョンセミナーでは、日々の食事から「食べる」豊かさと生きる質を探るために調査したデータを示し、「もぐもぐ日記」を使って歯科医院から食事をサポートする新たな挑戦について紹介したいと思います。