The 33rd Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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ランチョンセミナー

共催セミナー » [ランチョンセミナー6] 歯科衛生士と歯科医師,薬学研究者がコラボした新製品開発秘話 ~新型コロナとドライマウス対策で発明した革新的な口腔ケア用品~

ランチョンセミナー6
歯科衛生士と歯科医師,薬学研究者がコラボした新製品開発秘話 ~新型コロナとドライマウス対策で発明した革新的な口腔ケア用品~

Sun. Jun 12, 2022 1:00 PM - 1:40 PM 第2会場 (りゅーとぴあ 5F 能楽堂)

座長:野原 幹司(大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能治療学教室 准教授)

共催:アース製薬株式会社

[LS6] 歯科衛生士と歯科医師、薬学研究者がコラボした新製品開発秘話
~新型コロナとドライマウス対策で偶然発明した革新的な口腔ケア用品~

○阪井 丘芳 (大阪大学 大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学教室)

【略歴】
1991年 徳島大学歯学部 卒業
    大阪大学 歯学部附属病院 第一口腔外科 研修医
1994年 大阪警察病院 歯科口腔外科 医員
2000年 米国国立衛生研究所(NIH) 客員博士研究員
2001年 日本学術振興会 海外特別研究員
2004年 大阪大学 歯学部附属病院 口腔外科(制御系) 講師
2006年 米国国立衛生研究所(NIH) 客員教授
    大阪大学 歯学部附属病院 顎口腔機能治療部 部長
    大阪大学 大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学教室 教授

【主な学会活動、役職、資格】
日本レジリエンスジャパン推進協議・STOP 感染症 2020 戦略会議 「新・生活習慣 普及促進研究会」 口腔ケアワーキンググループ主査
2025年大阪・関西万博 未来の病院/先端医療展示 アドバイザー
International Confederation of Cleft Lip & Palate, Related Craniofacial Anomalies CLEFT2025 (2025年国際口蓋裂学会)大会長・2022-2025 President
Oral Science International (Wiley) Chief editor
日本口腔科学会 理事・指導医・2021年大会長、日本口蓋裂学会 理事 指導医
日本唾液腺学会 副理事長、日本抗加齢医学会 理事・専門医
日本口腔外科学会認定口腔外科 指導医
日本口腔リハビリテーション学会 理事、IADR 評議員
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 認定士 
日本口腔組織培養学会 理事、歯科基礎医学会 代議員
日本再生医療学会 代議員、日本睡眠歯科学会 評議員

【主な受賞歴】
1. 米国NIH Visiting Program Award(2000-2001年、2004-2006年に2度受賞)
2. Gordon Research Conference-Salivary Glands and Exocrine Biology-
Best Poster Award(2003年、2010年、2017年に3度受賞)
3. 第2回口腔医科学フロンティア最優秀賞(2003年)
4. 平成18年度国立大学法人大阪大学教育・研究功績賞(2007年)
5. 第89回米国口腔顎顔面外科学会最優秀講演賞 (2007年)
6. 平成22年度国立大学法人大阪大学功績賞(2010年)
7. 第16回歯科基礎医学会ライオン学術賞(2016年)

【主な業績、参考図書】
ドライマウス-今日から改善・お口のかわき-、医歯薬出版、2010
高齢者のドライマウス-口腔乾燥症・口腔ケアの基礎知識-、医歯薬出版、2017
睡眠時無呼吸症候群の口腔内装置治療-、医歯薬出版、2014
サイエンス誌に載った日本人研究者2010、2011年4月
Nature 2003; Science 2010; Eur Respir J 2016; Nature Communications 2018
【抄録】
 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染する際、宿主細胞側に存在する受容体としてアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)が知られています。遺伝子データベースでは、肺と同様に唾液腺にもACE2が発現することが示唆されていましたが、過去にヒト唾液腺組織にACE2タンパクが局在する根拠論文は報告されていませんでした。
2020年7月、我々はヒト口腔・咽頭粘膜に存在する唾液腺の導管上皮にACE2が著明に発現することを報告しました(OSI 2020)。本結果により、SARS-CoV-2は肺に直接感染するケースと唾液腺に感染するケースが考えられるようになりました。また米国NIHがCOVID-19で亡くなられた患者の半数以上にSARS-CoV-2の唾液腺感染が生じていることを明らかにしました(NatMed 2021)。彼らは唾液腺をSARS-CoV-2のProduction factory(生産工場)と表現しています。すなわちCOVID-19は肺に限られた疾患というよりも口腔・唾液腺を介した全身疾患と言えます。そこで仮説を考えました。健康な若年者が感染する場合、軽症患者としてSARS-CoV-2を含んだ唾液飛沫を拡散し治癒していきます。しかしながら、高齢者や呼吸器疾患患者の場合、感染すると自らの唾液を誤嚥(不顕性・顕性)し、呼吸器感染から重篤化する傾向があります。口腔機能の差違により症状の悪化が生じる可能性が示唆されました。現在、本仮説を証明するために基礎研究を続けています。
これまでに我々は誤嚥性肺炎を防ぐためにドライマウス患者に対する口腔ケア活動を行ってきました。そこで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する対策を考慮し、歯科衛生士と薬学研究者と連携を重ねた結果、「MA-T」(要時生成型亜塩素酸イオン水溶液)を用いた口腔ケア用品を開発しました。MA-Tは画期的な触媒技術により、通常はほぼ水に近い状態でありながらウイルスや菌がある時だけ姿を変えて攻撃し分解します。高い安全性を備えた優れた除菌・消臭剤です。すでに全ての国内線航空機やオリンピック・パラリンピックの聖火リレーにおいてアルコール消毒の代わりに利用されています。口腔粘膜にも為害性がなく、常温で10年以上安定しており、災害用の備蓄も可能で、東日本大震災でも活用されてきました。興味深いことですが、MA-Tを用いた口腔ケア用品を開発中偶然に、除去しづらい喀痰・剥離上皮・血餅等の口腔内の汚染物を柔らかくする作用を発見しました。研究を重ねていくうちに、口腔ケアを安全に手早くでき、効果的な除菌・消臭作用だけでなく、汚れの再付着を抑制できることが分かりました(発明届提出後、国内・国際特許出願中)。コロナ禍の医療現場・介護現場において、医療従事者の負担を大きく軽減するだけでなく、ウイルスの拡散を防ぐための新たな感染対策として提案していきたいと思います。