一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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一般演題(口演発表)

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一般口演2 全身管理・全身疾患

2022年6月11日(土) 10:00 〜 11:00 第3会場 (りゅーとぴあ 2F スタジオA)

座長:柏﨑 晴彦(九州大学大学院歯学研究院  口腔顎顔面病態学講座 高齢者歯科学・全身管理歯科学分野)

[O2-01] 歯肉の自然出血からマクログロブリン血症の診断に至った症例

○大岩 大祐、飯田 彰、福島 和昭、石田 義幸、小野 智史 (日之出歯科真駒内診療所)

【目的】
 マクログロブリン血症(以下,WM)は,IgM型Mタンパク血症を呈する低悪性度リンパ腫で,過粘稠度症候群,繰り返す発熱,盗汗,体重減少などの症状を有する.過粘稠度症候群は,出血,神経症状,眼症状が主体をなし,口腔内出血もみられる.WMは根治治療が難しく,その予後予測因子の一つに年齢65歳以上が挙げられており,高齢者においては注意を要する.しかし,渉猟したかぎり歯科領域からWM診断に至った報告は見当たらない.今回,私達は歯肉自然出血を契機にWMの診断に至った症例を経験したので,その概要を報告する.
 本報告に当たり,患者本人に発表の内容を説明し,文章による同意を得た.
【症例の概要と経過】
 77歳,女性.#47周囲歯肉からの自然出血を主訴に当科を救急受診した.併存疾患は高血圧症のみで抗血栓薬の常用はなく,出血性素因の指摘も受けていなかった.#47は重度辺縁性歯周炎を呈しており,抜歯が要されたが,手足にも紫斑を認め止血困難が予想されたため,入院管理下に血液検査を施行した.その結果,血小板58,000/μLと低下を認めたが,止血能は概ね正常であり抜歯を施行し,止血が得られたため退院した.退院時にかかりつけ医を受診させたが,診断には至らなかった.しかし,翌日の夜間に#45の自然出血を呈し当科に再入院した.そこで,血液内科専門医に対診を行い,骨髄検査の結果,WMと診断された.
【結果と考察】
 歯肉自然出血および手足の紫斑という所見から白血病や血小板減少性紫斑病などを念頭に対応したが,血液検査結果からそれらの病態は考えにくく,かかりつけ医でも診断に至らなかった.WMの検査値異常として,総タンパク高値,貧血,タンパク分画異常などが知られるが,自然出血とこれらの所見からWMを疑うのは歯科医師には困難と思われる.WMにみられる過粘稠度症候群は,血液粘度上昇による血管壁障害のほか,Mタンパクが血小板表面を被覆して血小板機能を低下させることや,Mタンパクが種々の血液凝固因子活性を阻害することなどが関連すると考えられている.したがって,口腔内出血を呈した,とりわけ予後予測因子の1つとして挙げられる65歳以上の患者で,総タンパク高値,貧血などの所見を認めた場合は,WMを念頭の一つにおいて対応することが肝要と思われた.
(COI開示:なし)
日之出歯科診療所倫理審査委員会:承認番号 21-004