一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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一般口演5 加齢変化・基礎研究1

2022年6月11日(土) 16:00 〜 16:40 第3会場 (りゅーとぴあ 2F スタジオA)

座長:井上 誠(新潟大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野)

[O5-02] 嚥下障害患者が使用するとろみ剤が血糖値や消化管ホルモンに与える影響
―ラット遺伝子の発現量解析―

○長澤 祐季、中川 量晴、吉見 佳那子、内田 有俊、吉澤 彰、玉井 斗萌、山口 浩平、中根 綾子 (東京医科歯科大学摂食嚥下リハビリテーション学分野)

【目的】
 経口摂取や服薬が困難な高齢者は、とろみ剤を用いることがある。とろみ剤の主成分であるキサンタンガムに関する先行研究では、健常者にキサンタンガムを添加した濃厚流動食を摂取させると、摂取後120分時点の血糖値が有意に抑制された。しかしながら、この詳細なメカニズムは不明であり、とろみ剤の長期的な摂取が血糖値や消化管に及ぼす影響については、これまで報告されていない。そこで我々はラットにとろみ剤を長期間摂取させ、 血糖値や消化管にどのような影響を及ぼすか、基礎的に検討した。
【方法】
 6週齢の雄性SDラットをTh(Thickener)群とCo(Control)群の2群(n=7)に分け5週間飼育した。Th群には8%とろみ水4mL(N社製とろみ剤と生理食塩水で調整)を、Co群には同量の生理食塩水を毎夕強制経口摂取させた。 4週後にOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)を実施し、実験終了時に解剖を行った。解剖時にラット消化管組織(胃、十二指腸、空腸、回腸)を採取し、複数の消化管ホルモン(Glp1PyyCckGhrelin)の遺伝子発現量をqPCRで定量した。各項目について2群間の相違の有無を統計学的に解析した。
【結果と考察】
 OGTT時の血中グルコース濃度は、グルコース負荷後60,90分地点でTh群がCo群に比べて有意に低値であった。(p=0.03,0.04)消化管ホルモン遺伝子の発現量は、Th群で回腸におけるGlp-1発現の有意な上昇 (p=0.006)と、回腸および胃でのCck発現の有意な低下(それぞれp=0.01,0.03)が確認された。
とろみ剤の長期摂取は、OGTT時の血糖値上昇を抑制し、また、腸管ホルモンの分泌にも影響を及ぼす可能性が示唆された。消化管ホルモンは糖や脂質の吸収と密接に関わっていることから、血糖値上昇抑制の一因となっているかもしれない。トロミ剤の使用量は個々の患者の嚥下機能によって決定されるが、例えば急性期と慢性期で嚥下機能に変化が見られるように、病態やその時々の状態によって必要量は変化する。高齢者に対するとろみ剤の使用は、糖の吸収に影響を及ぼすことに配慮し、定期的嚥下機能評価を行って適切な使用量を決定していく必要があるだろう。(COI開示:なし 東京医科歯科大学動物実験委員会承認番号A2021-199C)