一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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一般演題(口演発表)

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一般口演9 口腔機能3

2022年6月12日(日) 14:10 〜 14:40 第3会場 (りゅーとぴあ 2F スタジオA)

座長:田中 彰(日本歯科大学 新潟生命歯学部 口腔外科学講座)

[O9-02] 大腿骨骨折術後高齢者の栄養状態,術後ADL,口腔・嚥下機能と術後肺炎の関連因子

○重本 心平1、堀 一浩2、大溝 裕史3、大川 純平2、小野 高裕2、宮島 久1 (1. 会津中央病院 歯科口腔外科、2. 新潟大学大学院医歯学総合研究科包括歯科補綴学分野、3. 会津中央病院 歯科麻酔科)

【目的】
 大腿骨骨折は,手術そのものが摂食嚥下機能に及ぼす影響は少ないが,臨床では誤嚥性肺炎を発症する症例を経験することがある。「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン」には,術後の内科的合併症や入院中の死亡原因となる合併症として肺炎が多く,その中でも誤嚥性肺炎が多くを占め,嚥下障害の合併頻度は 34~40%に上ると述べられており,近年では嚥下機能評価の必要性が高まっている。そこで,本研究では,大腿骨骨折術後患者を対象に術後肺炎に関連する因子を検討した。
【方法】
 対象は,2017年3月~2021年11月に大腿骨骨折により会津中央病院外傷再建外科に入院し,嚥下機能評価のため当科に紹介された患者58名(男性23名,女性35名,平均年齢86.7±6.5歳)とした。術後の肺炎併発の有無により肺炎有群,肺炎無群の2群に分けた。性別,年齢,入院時の栄養リスク状態(Geriatric Nutritional Risk Index),術後ADL(BI: Barthel Index)の調査のほか,口腔機能評価(現在歯数,咬合状態,義歯の有無,舌圧測定),嚥下機能評価(VEによる兵頭スコア)を実施した。分析は,口腔機能,嚥下機能,栄養リスク状態,術後ADLを2群間で比較し,次にロジスティック回帰分析を用いて,術後肺炎の有無に関連する因子を検討した。
【結果と考察】
 58名中18名が大腿骨骨折整復術後に肺炎を併発していた。肺炎有群は肺炎無群と比べて,最大舌圧(p<0.001), 嚥下機能(兵頭スコア:p=0.002,唾液貯留:p=0.005,咳嗽反射:p=0.012,嚥下惹起:p=0.025),栄養状態(p=0.032),術後ADL(p=0.002)が低かった。さらに,多変量解析の結果,低舌圧,低栄養,嚥下機能(兵頭スコアにおける咳反射)の低下が術後の肺炎の有無と関連する有意な項目として選択された。低栄養で潜在的なサルコペニアが進行し低舌圧となっている高齢者が大腿骨骨折を引き起こすと,それをきっかけに嚥下障害が顕在化し肺炎を併発するリスクが高いと考えられる。今回の結果より,大腿骨骨折術後患者において早期に積極的な摂食嚥下評価と栄養管理を行う重要性が示唆された。
(COI開示:なし)
(会津中央病院 倫理審査委員会承認番号 1812)