一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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ポスター発表8 症例・施設

[P8-12] 舌の痛みおよび黒毛舌のある高齢者に漢方薬によるアプローチが有効であった症例

○久保田 潤平、多田 葉子、唐木 純一 (九州歯科大学 老年障害者歯科学分野)

【目的】
 黒毛舌はしばしば高齢者の口腔内においてみられることがある。黒毛舌の原因とその対応として,抗菌薬や副腎皮質ステロイド薬の使用による菌交代現象が考えられる場合は原因薬剤の変更や中止,口腔カンジダ症が疑われる場合は抗真菌薬による治療,口腔清掃不良であればその徹底等がある。今回,抗菌薬を服用しておらず、口腔衛生指導や口腔カンジダ症の治療後も改善が得られなかった高齢者の黒毛舌症例に対し,漢方薬を応用して効果を得られた1例を経験したので報告する。
【症例の概要と処置】
 73歳,女性。服用薬剤は整腸剤のみ。舌の痛みと黒さを訴えて来院した。数日前から舌が黒くなり、ピリピリとした痛みが出てきたとのことだった。また,味覚の感じにくさや口腔内のねばつき感の訴えもあった。培養検査でCandida albicans陽性であったため,口腔衛生指導を行い抗真菌薬であるミコナゾールの処方を行った。2週間後の来院時,痛みが強くなったとの訴えがあった。口腔衛生状態は良好であったが,舌所見については著変なく口腔内が乾燥している印象であった。そこで,ツムラ六君子湯®7.5g(分3)の処方を開始した。漢方薬処方1週間後の来院時には舌の黒色がほぼ消失しており,痛みも改善したとのことだった。その後,2週間処方を継続して終了したが,症状の再燃等の訴えはなかった。
 なお,本症例の発表において患者本人から同意を得ている。
【結果と考察】
 黒毛舌の病因は,抗菌薬および副腎皮質ステロイド薬の服用によって起こる菌交代現象による口腔内の細菌叢の変化や真菌の関与も考えられているが,完全には解明されていない。
 本症例では,抗菌薬や副腎皮質ステロイド薬等の原因となり得る薬剤は服用しておらず,Candida albicans陽性であったため抗真菌薬により治療を行っても改善がなかったことから口腔乾燥等の口腔環境の変化により,菌交代現象が生じて黒毛舌に至ったと考えた。
 今回は,漢方薬のツムラ六君子湯®を応用したところ,1週間で著明な改善がみられた。六君子湯の作用は様々報告されているが,口腔内の湿潤や舌乳頭を含む消化管粘膜の状態を整える作用が症状の改善に寄与したと推察された。本症例から, 漢方薬の応用が対応に難渋する黒毛舌の症例に対して有効である可能性が示唆された。
(COI開示:なし)(倫理審査対象外)