一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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課題口演2 口腔機能低下症

2022年6月11日(土) 10:30 〜 11:50 第4会場 (新潟県民会館 2F 小ホール)

[課題2-4] 発話音声解析による高齢者の口腔機能推定の可能性の検討

○加藤 陽子1、中嶋 絢子3、苅安 誠4,5、菊谷 武1,2 (1. 日本歯科大学大学院生命歯学研究科臨床口腔機能学、2. 日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック、3. パナソニック(株)エレクトリックワークス社、4. ヒト・コミュニケーション科学ラボ、5. 潤和リハビリテーション診療研究所)

【目的】
 口腔機能評価を行う際には,複数の機能評価手技を組み合わせる必要がある。一方で効率的な評価を行うためには簡便な方法の開発が望まれる。発話音声の解析で得られるフォルマント周波数のうち,第一フォルマント (F1) は顎の開口度と,第二フォルマント(F2)は舌運動と対応していることが知られている。本研究は,発話音声と口腔機能との関連を検討し,発話音声解析による口腔機能推定の可能性を探ることを目的とした。
【方法】
 対象は,2019年6月に地域の体力測定会に参加し,本研究に協力が得られた健康な65歳以上の女性90名のうち,20歯以上を有する70名(平均年齢73.6歳,65~85歳)とした。口腔機能は,グルコセンサーGS-II (ジーシー)を用いた咀嚼能力,デンタルプレスケールⅡ(ジーシー)を用いた咬合力,JMS 舌圧測定器(ジェイ・エム・エス)を用いた最大舌圧を測定した。ソフトウェア搭載のタブレットPCとマイクを用い,対象者に課題文を提示し発話させて音声の自動収録を行った。課題文は,構音に伴う顎と舌の運動を考慮して「絵を描くことに決めたよ」と設定した。解析対象は,課題文全体,舌の前後運動を示す「絵を」/eo/,舌先や舌背の挙上を示す子音/t/や/k/を含む「こと」「決めた」,および顎の開口度の3段階を示す「決めた」の母音/i//e//a/とし,音声認識ソフトウェアJuliusを用いて分節を同定し,独自の音響解プログラムにより時間・中心周波数・音圧を求め,話速度、F1とF2の変化量,子音母音の音圧格差を算出した。これら音声の指標の解析結果と,口腔機能評価の測定値との関連を2変量の相関により検討した。
【結果と考察】
 咀嚼能力は,F1 /a/-/i/の変化率(kHz/sec)と正の相関を認めた(r = 0.20)。咬合力は,F1 /a/-/i/範囲と正の相関を認めた(r = 0.20)。最大舌圧と/to//ta/や/ko//ki/の音圧格差との間には明らかな関連を認めなかった。対象者は健康高齢者であったために,天井効果により口腔機能の差が検出されにくい項目もあったと考えられ、今後は対象を拡大してさらなる検討が必要である。本研究において,発話音声を解析することにより, 口腔機能が推定できる可能性が示された。
(COI 開示:なし)
(日本歯科大学 生命歯学部倫理審査委員会 承認番号NDU-T2019-02)