[SY8-1] 急性期脳卒中患者に対する早期からの口腔衛生管理は有益か?
【略歴】
2014年 徳島大学歯学部 卒業
2018年 東京医科歯科大学歯学部附属病院スペシャルケア外来 医員
2019年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野 修了
2020年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション学分野 医員
2021年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション学分野 特任助教(現職)
日本老年歯科医学会(専門医、摂食機能療法専門歯科医師)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会(認定士)
日本臨床栄養代謝学会(認定歯科医)
日本障害者歯科学会
2014年 徳島大学歯学部 卒業
2018年 東京医科歯科大学歯学部附属病院スペシャルケア外来 医員
2019年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 高齢者歯科学分野 修了
2020年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション学分野 医員
2021年 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション学分野 特任助教(現職)
日本老年歯科医学会(専門医、摂食機能療法専門歯科医師)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会(認定士)
日本臨床栄養代謝学会(認定歯科医)
日本障害者歯科学会
【抄録】
はじめに、文献スクリーニングの結果ガイドライン作成に採用された論文の概要をいくつか紹介する。まず、入院から3日以内に歯科口腔管理を開始した脳卒中患者115名を対象とし、週1回以上の歯科の介入で退院時の口腔状況が変化するか観察した横断研究である。OHATスコアが入院時中央値4から退院時中央値3に減じ、義歯の項目と歯痛の項目を除く全ての項目でOHATスコアが有意に改善した。横断的な検討であり、歯科口腔管理を実施しないコントロール群が無い研究であるが、急性期からの口腔衛生管理の有効性を示したものである。また、歯科口腔管理を行った216名を対象とした観察的横断研究では、経管栄養群は経口摂取群と比較し有意に口腔状態が不良であり、経口摂取状況の改善には機能歯数とOHATスコアの改善が有意に関連していた。和文では、標準化された口腔管理プロトコルで介入した140名と、看護師の口腔ケアを実施した190名を比較した研究で、脳卒中発症3日目以降の肺炎合併症の発症率が減少した。また、口腔管理システムの標準化により、肺炎発症率が減少し自宅退院率が増加したとの報告がある。すなわち、急性期脳卒中患者の早期からの口腔衛生管理は、肺炎などの術後合併症予防だけでなく経口摂取状況や転帰に良い影響を及ぼすことから、患者にとって有益であると考えられる。
一方、脳卒中患者への医科歯科連携に関するガイドブック(2019年)では、同CQに対するエビデンスとして、早期からの口腔衛生管理によって「口腔衛生状態が改善する(推奨レベル:弱)」、「急性感染症やそれに伴う発熱の頻度を低下させる(推奨レベル:弱)」、「胃ろう造設者の割合を低下させる(推奨レベル:弱)」が挙げられていた。いずれも推奨レベルは弱く、急性期脳卒中患者の口腔衛生管理に関する質の高いエビデンスは少ない。これはそもそもランダム化試験の倫理的問題や、医科、看護との共同研究の調整が難しいことが関わっていると思われる。研究成果から得られるメリットが大きく、恩恵を受ける患者が多いことを他医療職種と共有することが大切である。
平成30年度の歯科診療報酬改定で周術期口腔機能管理の対象疾患に脳卒中が追加され、脳卒中発症直後から歯科口腔管理を実施する病院は増えている。本学でも医科病棟へ往診して急性期脳卒中患者の口腔機能管理を実施し、転院先の病院や在宅へつなぐ患者支援を継続してきた。入院時の口腔状況が不良な場合は、看護師の口腔ケアが困難であったり、歯科治療を要する場合も少なくない。義歯や咬合状態など口腔機能に関わる問題も多いことから、私自身の臨床的な実感としては、早期からの口腔衛生管理も含めた口腔機能管理が極めて重要であると考える。シンポジウムでは口腔衛生管理に関する新たな知見や情報を共有し、学術的な視点から改めて口腔衛生管理の意義を考えたい。
はじめに、文献スクリーニングの結果ガイドライン作成に採用された論文の概要をいくつか紹介する。まず、入院から3日以内に歯科口腔管理を開始した脳卒中患者115名を対象とし、週1回以上の歯科の介入で退院時の口腔状況が変化するか観察した横断研究である。OHATスコアが入院時中央値4から退院時中央値3に減じ、義歯の項目と歯痛の項目を除く全ての項目でOHATスコアが有意に改善した。横断的な検討であり、歯科口腔管理を実施しないコントロール群が無い研究であるが、急性期からの口腔衛生管理の有効性を示したものである。また、歯科口腔管理を行った216名を対象とした観察的横断研究では、経管栄養群は経口摂取群と比較し有意に口腔状態が不良であり、経口摂取状況の改善には機能歯数とOHATスコアの改善が有意に関連していた。和文では、標準化された口腔管理プロトコルで介入した140名と、看護師の口腔ケアを実施した190名を比較した研究で、脳卒中発症3日目以降の肺炎合併症の発症率が減少した。また、口腔管理システムの標準化により、肺炎発症率が減少し自宅退院率が増加したとの報告がある。すなわち、急性期脳卒中患者の早期からの口腔衛生管理は、肺炎などの術後合併症予防だけでなく経口摂取状況や転帰に良い影響を及ぼすことから、患者にとって有益であると考えられる。
一方、脳卒中患者への医科歯科連携に関するガイドブック(2019年)では、同CQに対するエビデンスとして、早期からの口腔衛生管理によって「口腔衛生状態が改善する(推奨レベル:弱)」、「急性感染症やそれに伴う発熱の頻度を低下させる(推奨レベル:弱)」、「胃ろう造設者の割合を低下させる(推奨レベル:弱)」が挙げられていた。いずれも推奨レベルは弱く、急性期脳卒中患者の口腔衛生管理に関する質の高いエビデンスは少ない。これはそもそもランダム化試験の倫理的問題や、医科、看護との共同研究の調整が難しいことが関わっていると思われる。研究成果から得られるメリットが大きく、恩恵を受ける患者が多いことを他医療職種と共有することが大切である。
平成30年度の歯科診療報酬改定で周術期口腔機能管理の対象疾患に脳卒中が追加され、脳卒中発症直後から歯科口腔管理を実施する病院は増えている。本学でも医科病棟へ往診して急性期脳卒中患者の口腔機能管理を実施し、転院先の病院や在宅へつなぐ患者支援を継続してきた。入院時の口腔状況が不良な場合は、看護師の口腔ケアが困難であったり、歯科治療を要する場合も少なくない。義歯や咬合状態など口腔機能に関わる問題も多いことから、私自身の臨床的な実感としては、早期からの口腔衛生管理も含めた口腔機能管理が極めて重要であると考える。シンポジウムでは口腔衛生管理に関する新たな知見や情報を共有し、学術的な視点から改めて口腔衛生管理の意義を考えたい。