一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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シンポジウム8
ガイドラインシンポジウム:急性期脳卒中患者の口腔管理に関するガイドライン

2022年6月11日(土) 16:20 〜 17:40 第2会場 (りゅーとぴあ 5F 能楽堂)

座長:戸原 玄(東京医科歯科大学摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授)、堀 一浩(新潟大学大学院医歯学総合研究科包括歯科補綴学分野 准教授)

企画:ガイドライン委員会
*認定制度指定研修

[SY8-3] 脳卒中急性期の抜歯は脳卒中の再発のリスクファクターか?

○大橋 伸英1,2 (1. 札幌医科大学医学部 衛生学講座、2. 札幌医科大学医学部 口腔外科学講座)

【略歴】
2011年3月 北海道大学歯学部歯学科卒業
2011年4月 横浜市立大学附属病院初期臨床研修医
2013年4月 横浜市立大学附属病院後期臨床研修医
2016年4月 横浜市立大学附属病院 歯科・口腔外科・矯正歯科 指導診療医
2018年4月 横浜市立大学附属病院周術期管理センター 副センター長
2019年3月 横浜市立大学大学院医学研究科顎顔面口腔機能制御学修了(博士(医学))
2019年4月 横浜市立大学附属病院 歯科・口腔外科・矯正歯科/周術期管理センター助教・副センター長
2021年4月 札幌医科大学 医学部 衛生学講座,口腔外科学講座 助教(兼任)
現在に至る

【資格】
日本口腔外科学会口腔外科認定医,口腔外科専門医,日本口腔科学会認定医
日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士
日本臨床栄養学会認定臨床栄養医・指導医,日本静脈経腸栄養学会認定歯科医
【抄録】
脳卒中は大きく脳梗塞,脳出血,くも膜下出血の3つに大別される。脳卒中の急性期は一般的に発症後2週間までの期間を指し,意識障害,言語障害,摂食嚥下障害,認知機能障害等の症状が出現する。急性期の口腔管理では,重度の歯周炎や根尖性歯周炎等の歯性感染のために,急性期に抜歯を選択せざるを得ない場合がある。脳卒中急性期では,脳出血やくも膜下出血の出血性病変の患者は適度な血圧管理が行われていることが多い。また,脳梗塞の患者は再梗塞を予防するために,早期から抗血栓療法が行われていることが多い。歯科の観点からみると,抜歯が必要な症例に遭遇した場合,出血性病変と梗塞性病変では異なる対応が求められると考えられる。そこで,本学会のガイドライン委員会で,急性期脳卒中患者の口腔管理に関するガイドラインのClinical Questionの一つとして,“脳卒中急性期の抜歯は脳卒中再発のリスクファクターか?”という点に関し,検討を行うこととなった。
脳卒中急性期の抜歯に関する文献検索(Pubmed,医中誌)により,計214論文が抽出された。一次スクリーニングにより,英文誌2論文,和文誌4論文が抽出され,二次スクリーニングにより,英文誌2論文,和文誌1論文が抽出された。最終的に英文誌2論文が本Clinical Questionに該当する論文として採択された。採用された2論文はいずれも観察研究(症例対象研究,横断研究)でありエビデンスレベルの強さは低いと考えられた。脳卒中急性期における脳卒中の再発をアウトカムとした検討は行われているが,症例選択において脳卒中以外の疾患(心筋梗塞,一過性脳虚血発作)が含まれており,脳卒中急性期の抜歯が脳卒中の再発に関与するかどうかを結論づけることは難しいと考えられた。最終的に脳卒中の再発リスクの観点から急性期に抜歯を控える根拠は乏しいという結果となった。今後の研究として,歯科治療の内容を抜歯に限定するのではなく,侵襲的歯科治療として検討することが必要と考えられた。
脳卒中急性期の抜歯が脳卒中の再発に関与するというエビデンスは乏しいが,有病者歯科診療の一般的な対応を行ったうえで,抜歯等の侵襲的歯科治療を行うべきである。本講演では,本Clinical Questionの概要を報告し,脳卒中患者における抜歯に関する注意点について概説する。本講演が歯科医師・歯科衛生士の日常臨床の一助となれば幸いである。