一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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シンポジウム9
スポンサードシンポジウム:咀嚼研究の最新像

2022年6月12日(日) 09:00 〜 10:00 第1会場 (りゅーとぴあ 2F コンサートホール)

座長:井上 誠(新潟大学大学院医歯学総合研究科摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授)、山村 健介(新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔生理学分野 教授)

共催:株式会社ロッテ
*専門医申請者研修

[SY9-3] 「咀嚼と脳機能 -たべることが脳にもたらす変化-」

○長谷川 陽子 (新潟大学大学院医歯学総合研究科包括歯科補綴学分野)

【研究者情報URL】
https://researchmap.jp/read0076445

【略歴】
2001年 九州歯科大学歯学部卒業
2001年 大阪大学大学院歯学研究科 博士課程
2006年 大阪大学歯学部附属病院 咀嚼補綴科 医員
2010年 兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 助教
2012年 モントリオール大学 客員研究員
2014年 兵庫医科大学歯科口腔外科学講座 講師
2017年 新潟大学大学院医歯学総合研究科 講師 現在に至る

【関連文献】
1. Influence of human jaw movement on cerebral blood flow. J Dent Res. 86, 64-68, 2007.
2.Effects of unilateral jaw clenching on cerebral/systemic circulation and related autonomic nerve activity. Physiol. Behav. 105, 292-297 2012.
3.Flavor-Enhanced Modulation of Cerebral Blood Flow during Gum Chewing. PLoS ONE  8, 2013.
4.Influence of Sourness on Higher Brain Functions. J Nutri Food Sci, 2017.
【抄録】
 咀嚼とは,咀嚼筋をはじめとする顎筋・舌・顔面のリズミカルな運動であり、その運動は半随意的に食塊の物理的性状の変化に対応して最適な顎運動パターンをとる反射的要素の強い運動といえます。顎運動や咀嚼運動といった半随意運動の制御に関わる部位だけでなく認知機能との関連も深い大脳皮質では、咀嚼時には活動筋が収縮と弛緩を繰り返す等張性収縮(動的収縮)により筋血流量は増し、さらに食品の味・香り・食感などの刺激が相乗効果となり,咀嚼をコントロールする脳神経活動が賦活化し,脳血流が増加する事が知られています。脳神経細胞のエネルギー源は糖のみのため、神経活動の亢進に伴い局所血流量が増加します。その原理を利用して、PETやf-MRIなどの脳機能イメージング技術が進歩してきました。咀嚼運動は頭頸部が動くだけでなく、筋活動や唾液分泌などを伴うため脳機能イメージングにとっては不利ですが、これまで様々な試みがされきました。その大きな理由が、咀嚼は「毎日する運動だから。誰でもする運動だから。」でしょう。
 歩行やトレーニングなど運動習慣の定着・継続が認知機能(≒高次脳機能)の改善に効果的であることは、近年の報告から知られています。例えば歩行運動は、運動に伴う脳への求心性情報増加だけでなく、骨格筋での代謝亢進や、交換神経活動は亢進に伴う全身の血流増加をもたらしますが、脳血流も脳神経活動の亢進に伴って増加します。一方で、運動習慣は働く世代は「面倒だから」定着せず、高齢者になると生活習慣が変えられないだけでなく運動機能の低下のために、定着しにくいことが知られています。そこで、いつもより「よく噛む」だけで他の運動と同様の効果が得られるのであれば、間違い無く「咀嚼」は高齢者にとって素晴らしい運動と言えるでしょう。
 本セッションでは、咀嚼と脳との関連について、ヒトを対象とした研究を紹介し、咀嚼の運動としての可能性を概説します。また、高齢者における咀嚼と認知機能との関連性について、最近の研究から得られたエビデンスを紹介し、高次脳機能にとって良い食事とは何かを考察します。また、我々が行っている脳機能イメージング研究から得た知見を紹介し、咀嚼習慣の定着と認知機能との関連性についてエビデンスと共にセッションに参加される皆様とディスカッション出来ればと思います.