一般社団法人日本老年歯科医学会 第33回学術大会

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シンポジウム12
支部・地域保健医療福祉シンポジウム:地域包括ケアにおける高齢者栄養支援に歯科はどうかかわるか?

2022年6月12日(日) 09:40 〜 11:30 第2会場 (りゅーとぴあ 5F 能楽堂)

座長:平野 浩彦(東京都健康長寿医療センター 歯科口腔外科部長/研究所研究部長)、糸田 昌隆(大阪歯科大学附属病院口腔リハビリテーション科/医療保健学部 教授)

企画:支部・地域保健医療福祉委員会

[SY12-3] 地域高齢者の低栄養を防止せよ!〜歯科からはじまる"社会的処方"と"通いの場"へのかかわり方〜

○丸岡 三紗 (まんのう町国民健康保険造田歯科診療所)

【略歴】
2013年 四国学院大学専門学校 歯科衛生科卒業
同年   三豊総合病院企業団 歯科保健センター勤務
2015年 まんのう町国民健康保険造田歯科診療所勤務 現在に至る
2019年 徳島大学大学院総合科学教育部博士前期課程地域科学専攻地域創生分野修了
     修士(学術)
【抄録】
「あれっ、〇〇さんなんか痩せました?」

いつも定期受診で通っている患者さんが、急に低栄養に陥ってしまったーー私たちかかりつけ歯科衛生士がよく遭遇する場面である。

「そうなんよ。実は家内が入院してな、コンビニ弁当しか食べるもんがないんじゃ。」

それは大変!あわてて担当の民生委員に連絡してみたり、宅配弁当をすすめてみたりと、あらゆる手を尽くしたがうまくいかなかった。しかしその後、彼はずいぶん元気そうな顔で定期受診に訪れてこう言った。「あそこの定食屋に通うようになって、体重5キロ増えたんよ。常連客とも仲良くなって寂しさもまぎれたし、ワシはあの定食屋に生かされよるようなもんや」

この人の低栄養を防いだのは、まぎれもなく一軒の定食屋さんだったのだ。

医療の力だけで、地域高齢者の低栄養が防止できると思ったら大間違いなのである。

地域包括ケアをつくるとき、最も邪魔になるのは"自分の専門性へのとらわれ"である。「歯科だから歯科らしい活動をしよう」という思いはいったん捨て、その地域に本当に必要なことは何かを一から考え抜くことが肝要である。

そうして、われわれが行き着いたのは山奥の高齢者をスーパーマーケットに連れて行く"お買い物ツアー"や、サロンで歯科衛生士が開く"お好み焼きパーティ"などであった。

通いの場では、健康教育はあえてやらない。目指すべきは「歯のことをちょっと知ってるお友達」のポジションである。そのほうが住民との距離がグッと近づき、何気ない会話の中で些細な口腔のトラブルについても気軽に相談してもらいやすくなる。通いの場で関わった住民からは、「歯医者は怖くて大嫌いやったけど、あんたたちみたいな優しい子がいるならちょっと行ってみようかな」「あなたと話せるから、歯の掃除に行くんが楽しみなんよ」と、歯科衛生士冥利に尽きる言葉を山ほどかけていただく。

健康無関心層を、いかに"当たり前の歯科医療"につなげるかーーそれこそが最も大事なオーラルフレイル対策ではないだろうか。

地域に出るときは、専門職らしさは隠し持つくらいがちょうどよい。住民と一緒に楽しんでいるうちに、"結果として"健康になってもらえたらそれでよい。地域医療は「ゆるさが命!」なのである。