[認定P-11] 長期間義歯未使用の要介護高齢者に義歯製作と口腔清掃指導で栄養状態の改善を認めた1症例
【緒言】 要介護高齢者は低栄養に陥るリスクが高い。また認知症の重症度によっては義歯の受容は困難で, 製作による効果は限局的と考えられている。今回, 数ケ月義歯を未使用であった施設入所の要介護高齢者に新義歯製作と口腔清掃指導を行い, 栄養改善を認めた症例を経験したので報告する。 【症例】 88歳女性。義歯が入れられないとの主訴で診察依頼を受けた。既往は胸腰椎多発圧迫骨折, 肺線維症, 慢性心不全。生活歴は胸腰椎多発圧迫骨折のため入院しADLが大きく低下したのを機に単身での生活から施設入所となる。身長137.0㎝, 体重38.4kg, BMI20.4, 日常生活の自立度はランクB1。食事形態は軟飯・粗刻み, 栄養状態はMNA-SF 9点, 経口栄養剤の処方を受けている。口腔衛生管理は一部介助で, 口腔衛生状態はやや不良であった。なお本発表について患者本人と代諾者から文書による同意を得ている。 【経過】 義歯は下顎部分床義歯(654321|123)で適合不良を認めた。入所前から義歯は使用しておらず, 本人への聴取では数ケ月以上未装着であるが詳細は不明であった。義歯の使用に至らない可能性も家族に説明しつつ義歯調整を行うなか, 本人が新義歯製作に意欲を示した。下顎左側ブリッジ(⑤6⑦)はM3の動揺を認めたが, 本人が抜歯を拒否したため保存し新義歯製作の治療計画を立案した。家族は治療を希望し, 本人も治療に協力的であった。製作した義歯は食事時の使用とした。食形態はこれまで通りとし, また低栄養のリスクを考慮し夜間の間食を指示した。口腔内の食物残留に対し口腔含嗽を指導し口腔衛生状態はやや改善した。歯科介入後, 体重は1.0kg増加しBMIは20.9となった。 【考察】 患者は元来食が細く低栄養のリスクがあり, 捕食や間食が栄養摂取に重要と考えられた。現在も夜間に間食を提供しており, 今後もう蝕の進行や不顕性誤嚥のリスクが高く口腔衛生の保持が重要である。洗口はほぼむせもなくしっかりと行えたため口腔含嗽を指導した。歯科介入後も食事量の大幅な増加は認めなかったが体重は増加した。口腔機能は低栄養と関連することが報告されており, 日々の含嗽が機能訓練となり栄養改善につながった可能性が考えられた。口腔清掃の巧緻性の低下が疑われ, 今後口腔から観察される変化を適切に評価し, 介護者と情報共有することが重要と考える。 (COI:開示なし) (倫理審査対象外)