[認定P-16] 下顎歯肉癌術後に,リハビリテーションにより経口摂取再開となった症例
【目的】 下顎歯肉癌による下顎骨区域切除に伴い,食事摂取困難となった症例に対しリハビリテーションを行い経口摂取再開となった症例を経験したので報告する。 【症例】 70歳女性。40年前に上咽頭腫瘍に対し放射線治療を施行,嚥下機能の低下を診断され軟菜食を摂取していた。2020年1月に他院にて下顎歯肉癌と診断され下顎骨左側区域切除術及び遊離腹直筋皮弁移植術を施行。プレート再建は行っていない。以降嚥下障害が強く認められ,胃瘻造設及び禁食となった。手術より6か月後,経口摂取再開を希望し当科に紹介来院した。ADLは自立,認知機能は正常の範囲内。外部評価所見として開鼻声及び気息性嗄声,口唇閉鎖不全を認め,舌及び口腔周囲の巧緻性は不良。上下顎とも無歯顎であり,口腔乾燥と下顎左側部に皮弁を認めた。嚥下内視鏡検査にて軟口蓋挙上不全,左側披裂部及び声帯の麻痺,咽頭収縮力の低下を認めた。嚥下造影検査下でゼリーを用いて検査したところ,咽頭への移送能力の低下,喉頭蓋の反転不良及び食道入口部の開大不全,喉頭蓋谷及び咽頭内の残留と不顕性誤嚥を認めた。発声に対し言語聴覚士と連携すると共に,間接訓練として嚥下おでこ体操とバルーン訓練を指導した。尚,本症例の発表に際し患者本人の同意を得た。 【経過】 初診+4か月後の嚥下造影検査にてチルトを付与し誤嚥なくゼリー飲料を摂取可能となった。直接訓練として,リクライニング下でゼリー飲料3ccの摂取を訓練後の十分な喀出と共に行うよう指導した。初診+6か月後には残留の減少と咽頭への移送時間の改善を認め,1日200kcal程度を目標にペースト食,ゼリー飲料を用いた直接訓練を指導した。 【結果と考察】 舌骨移動量は初診時に比べ増加した。歯肉癌に伴う下顎骨区域切除による下顎骨に起始を持つ舌骨上筋群の機能低下,頸部郭清術に伴い反回神経麻痺が生じた事による誤嚥リスクの増加,過去の放射線治療による咽頭周囲筋の線維化と,複数の要因により嚥下障害の重症化に至ったと考えられる。本症例では継続的な間接訓練による筋力の向上が喉頭挙上量の増加に繋がり,バルーン訓練による食道入口部改善の即時効果と組み合わさり咽頭残留の減少に寄与し,また長期間の禁食による口腔咽頭感覚の低下に対し直接訓練によって実際に咽頭を使うことで感覚の賦活化に繋がり不顕性誤嚥が減少したと考える。 COI開示:なし (倫理審査対象外)