[認定P-38] 脳梗塞後遺症及び難病により口腔状態が悪化した患者において継続的な口腔ケアと嚥下体操が奏功した症例
老化や疾患による摂食・嚥下機能の低下に対する嚥下体操の施行は,その改善,誤嚥性肺炎の防止に効果があることはよく知られている。今回,脳梗塞後及び難病のため口腔清掃状態と摂食・嚥下機能が低下した患者に対して,居宅訪問歯科診療での継続的な口腔ケアと嚥下体操が奏功した症例を経験したので報告する。【症例】69歳,女性。脳梗塞後遺症及び原発性抗リン脂質抗体症候群による歩行困難,四肢麻痺があり筋拘縮を認めた。初診時の要介護認定区分は要介護度5,寝たきり度B2,認知症度Ⅳであった。意思疎通は不十分で,全介助での口腔清掃も困難であり誤嚥性肺炎のリスクがあった。咀嚼に問題ないが,嚥下に時間がかかり食物の口腔内残存による食事時間延長を認めた。口腔内残存歯式は右上123567左上46,左下12345右下134。義歯は上顎前歯部および下顎両側臼歯部の部分床義歯を装着している。既往歴:原発性高リン脂質抗体症候群,左側後頭葉脳梗塞,脳血管性認知症なお,本報告の発表について患者家族から文書による同意を得ている。【経過】主訴は右下13のう蝕治療,口腔ケア希望。う蝕治療施行後,口腔乾燥,舌苔付着,口腔清掃不良に対して継続的な口腔ケアを開始した。歯肉の炎症からの出血は顕著であり,口腔清掃,口腔粘膜清掃,歯肉マッサージを行った。更に時間をかけて嚥下体操(頬ふくらまし体操,パタカラあいうべ体操)をし,唾液腺マッサージを追加して,以後月1回ごとに継続した。歯肉の炎症と嚥下状態は改善傾向となり,口腔乾燥も改善した。その後,難病が進行し経口摂取困難となり低栄養による体重減少(BMI:12.2)で体力減弱を認め,胃瘻となった。現在も経口摂取能力の回復のため,介入を継続している。【考察】口腔ケアの継続は,口腔内の感染リスクを軽減し,誤嚥性肺炎予防の一助になったと考えられる。嚥下体操の継続は,唾液分泌量の増加や嚥下機能の回復に効果があると穴井らの研究では示唆され,今回においても効果があったと考える。体力減弱により,補完的に胃瘻にせざるを得なくなったが,難病の進行も考慮した対応を模索する必要があったと考える。(COI開示:なし)(倫理審査対象外)