The 34th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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摂食機能療法専門歯科医師審査/更新ポスター

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摂食機能療法専門歯科医師審査ポスター

Fri. Jun 16, 2023 2:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (1階 G3)

[摂食審査P-4] 舌接触補助床(PAP)を作製し言語聴覚士・管理栄養士とともに診療を行った舌癌術後症例

○松村 えりか1 (1. 大阪大学歯学部附属病院顎口腔機能治療部)

【緒言・目的】
 口腔腫瘍術後患者は口腔内の形態や機能が手術前と変化するため,摂食嚥下機能や構音機能に支障をきたしやすい。今回,舌癌術後患者に対して舌接触補助床(PAP)を作製・調整し,経口摂取および構音の機能改善を得たので報告する。
【症例および経過】
 63歳,女性。橋本病,骨粗鬆症,高脂血症の既往がある。令和3年3月初旬,左側舌癌に対して当院口腔外科にて左側舌半側切除術,前腕皮弁再建術,左側頸部郭清術(Lv.Ⅰ~Ⅴ)が施行された。術後に出現した左側舌下神経麻痺と舌の実質欠損のため,舌の可動域縮小と舌・口蓋接触不良を認め,咀嚼および食塊形成,口腔から咽頭への食塊の送り込みが困難であった。準備期・口腔期の改善と全量経口摂取への移行を目標とし,経鼻胃管栄養を併用しながら摂食嚥下訓練を開始した。術後21日目に嚥下造影検査(VF)下でPAPを作製・形態修正したところ,口腔から咽頭への送り込みが改善し,嚥下調整食2-1を全量経口摂取可能となった。また,舌の可動域縮小に伴い構音不明瞭(発話明瞭度3)を認め,本人から「周囲と会話ができない」との訴えがあった。言語聴覚士と共に診察し,さらにPAP形態を修正したところ,構音の改善を認め,PAP装着下で発話明瞭度1となった。術後62日目から術後化学放射線療法が施行され,術後128日目に退院した。自宅での経口摂取や食事内容に関して不安の訴えが強く,週1回の外来診療を行った。皮弁萎縮による舌・口蓋接触の悪化を認めたため,外来VF下でPAP形態を再度調整したところ舌・口蓋接触の改善を認めた。自宅では患者自身が調理を担っており,調理への不安の訴えや退院後の体重減少を認めたため,管理栄養士へ介入を依頼し,調理方法や必要栄養量について指導した。その結果,術後151日目には自身で調理した嚥下調整食3の経口摂取が可能となった。本報告の発表について患者本人から文書にて同意を得ている。
【考察】
 本症例は舌の実質欠損・皮弁退縮,舌下神経麻痺による摂食嚥下障害や構音障害があり,本人の不安が強かった。しかし,入院中から退院後まで舌形態や機能の変化に合わせたPAPの調整を行い,言語聴覚士・管理栄養士とともに生活に配慮した診療・指導・助言を行ったことで,食事や会話を通した生活の質の改善につながったと考えられる。
(COI開示:なし) (倫理審査対象外)