[摂食更新P-3] 多発性脳梗塞後,長期に経口摂取を中断していた患者に対し,病診連携で対応した1症例
【緒言・目的】 長期非経口摂取患者の摂食嚥下リハビリテーションには,慎重な対応と長期のリハビリテーションが必要となることが多い。病院には多職種による専門チームと,診断治療のための機器が備わっているが,身体にも障害のある患者が長期に頻回に,病院に通院することは困難である。そこで病診連携によるシームレスな対応が求められるが,病院,診療所ともに摂食嚥下リハビリテーションに関する対応が行える地域は少ない。 今回,胃瘻増設後1年間経口摂取を行っていなかった脳卒中患者に対して,病院において摂食嚥下機能評価と抜歯を含む口腔環境整備を行い,歯科訪問診療にて義歯の製作を含む,摂食嚥下リハビリテーションを継続し,経口摂取が可能となった 1 例を経験したので報告する。 【症例および経過】 73 歳,男性。多発性脳梗塞。転倒を繰り返すようになり,2020 年 4月に近医脳神経外科病院を受診,多発性脳梗塞にて入院となった。摂食嚥下障害を認めたことから経口摂取は中止となり,胃瘻を造設後自宅退院となった。訪問診療を受けていたが,回復は困難とのことで摂食嚥下リハビリテーションは行われなかった。患者は経口摂取の希望が強く,ケアマネージャーから相談があり,2021年4月当院初診となった。嚥下造影検査の結果,バリウムにて少量の誤嚥を認めたが,喀出可能でペースト,ゼリーは咽頭への送り込みに時間がかかるものの,誤嚥なく嚥下可能であった。重度う蝕のため6歯は保存不可能で,旧義歯は装着できなかった。舌抵抗訓練や開口訓練,頭部挙上訓練を開始し,保存不可能な歯の抜歯とう蝕,歯周基本治療を行い,自宅近くの歯科診療所に訪問診療での補綴治療と摂食嚥下リハビリテーションの継続を依頼した。1年後の嚥下造影検査の再評価では,バリウムの誤嚥もなくなり,食塊の保持,咽頭への送り込みも改善していたことから,全粥に変更し,徐々に食形態を上げていくこととなった。 なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。 【考察】 本症例では経口摂取が1年以上中断していたが,病診連携による評価と抜歯や口腔衛生管理,義歯による補綴など口腔内環境の整備,摂食嚥下リハビリテーションの継続によって,経口摂取を回復することができた。摂食嚥下リハビリテーションに関する病診連携の重要性を改めて実感することができた。 (COI開示:なし)(倫理審査対象外)