一般社団法人日本老年歯科医学会 第34回学術大会

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一般演題(口演発表)

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一般口演5
全身管理・全身疾患/症例・施設

2023年6月18日(日) 10:20 〜 11:20 第2会場 (3階 G303)

座長:
片倉 朗(東京歯科大学口腔病態外科学講座)
岩佐 康行(社会医療法人 原土井病院 歯科)

[O5-5] 脳血管疾患後の摂食嚥下・構音障害に対し,上顎義歯一体型の軟口蓋挙上装置が有効であった1例

○砂川 厚実1、原田 由香1、野末 真司1、伊原 良明1 (1. 昭和大学歯学部スペシャルニーズ口腔医学講座口腔機能リハビリテーション部門)

【緒言・目的】
脳血管疾患後に運動障害性構音障害が生じることは珍しくない。今回,上顎義歯と軟口蓋挙上装置(PLP)を一体型とした装置を作製し,鼻咽腔閉鎖機能および摂食嚥下機能の両方の改善を認めた1例を経験したので報告する。
【症例および経過】
65歳,男性。既往歴は幼児期の反回神経麻痺,高血圧症,慢性腎臓病,脳出血,てんかんである。2022年7月に飲み込み辛さと呂律が回らないことを主訴として救急外来を受診した。右ラクナ梗塞を認め入院加療を行ったが前頭葉機能低下および中等度の構音障害が残存した。構音訓練を行うも,更に明瞭な発音を患者が希望したため前医より補綴的発音補助装置を提案され,同年9月に紹介受診となった。
初診時,上顎は部分床義歯を使用していたが不適合を認めた。下顎は遊離端義歯を所持していたが,違和感が強く自己判断により,下顎左側遊離端のみ補綴する部分床義歯を使用していた。顎位は不安定で,弛緩した舌が右側欠損部に広がって舌背部の高さが相対的に減少していた。また,舌可動域低下および鼻咽腔閉鎖不全による共鳴の異常を認め,開鼻声および呼気鼻漏出による子音の歪みとも中等度であり、会話明瞭度は2であった。前医にて撮影した嚥下造影検査では明らかな鼻咽腔逆流や誤嚥等は認められず,摂食嚥下障害患者における摂食状況のレベル(FILS)はレベル8であった。側方頭部X線規格写真にて,構音時の軟口蓋挙上不全を認めたが,十分な軟口蓋の長さを認めたためPLPの適応と判断し,義歯とPLPを一体型とした上顎の装置作製を開始した。下顎両側遊離端義歯の適合状態を確認したところ,適合は良好であり,患者へ必要性を十分に説明した上で,義歯の使用について指導した。
装置装着開始1ヶ月後の鼻咽腔閉鎖機能評価では,PLP装着時において開鼻声は不変であったが呼気鼻漏出時による子音の歪みが中等度から軽度となり,会話明瞭度は1.5と改善した。FILSはレベル9となり,嚥下造影検査では,装置装着により軟口蓋の挙上量の増加を認めた。
なお,本報告の発表に際して患者本人より口頭で同意を得ている。
【考察】
脳血管疾患後に生じる運動障害性構音障害の患者にPLPを使用したことで軟口蓋挙上の改善が認められた。それに伴い呼気鼻漏出による子音の歪みおよび摂食嚥下機能が改善された。
(COI開示:なし、倫理審査対象外)