[P10] 大腿骨骨折で手術適応となった後期高齢患者の口腔スクリーニング結果と食形態の関係
【目的】
大腿骨骨折が原因の入院患者における術後合併症として肺炎が最も多いという報告があるが, この原因の一つとして考慮すべき口腔環境や口腔機能を整形外科入院の高齢患者において評価した報告は極めて少ない。そこで本研究では, 大腿骨骨折で手術適応となった高齢患者に対し適切な食形態の選定を行うため, 口腔環境と口腔機能の実態調査を行うこととした。
【方法】
2022年の1月から12月の1年間において大腿骨骨折で手術適応となった後期高齢患者151名のうち, 同意の得られた患者137名(男性32名, 女性105名, 平均年齢85.1±6.0歳) を対象とした。摂食嚥下リハビリテーションを専門とする歯科医師(以下,専門歯科医師)1名が, 入院時の口腔スクリーニングとして歯式(現在歯数, 機能歯数)の記録とOral Health Assessment Tool(以下, OHAT), 口腔湿潤度(口腔水分計 ムーカス🄬), 舌圧(JMS舌圧測定器)の評価を行った。さらに, それらの結果を参考に入院時に提供されていた食形態(以下, 入院時食形態)と専門歯科医師が推奨した食形態との関連を検討した。
【結果】
大腿骨骨折の内訳は右67/左70例, 亜部位別では頸部69/転子部55/その他13例であった。OHATは0~12点で分布し, 中央値は5点であった。口腔湿潤度(n=113)と舌圧(n=95)の基準値を満たしていた者はそれぞれ16例(14.2%)と8例(8.4%)で低率であった。入院時食形態が嚥下調整食であった症例は90例(65.7%)であった。口腔スクリーニングの結果から, 入院時食形態と専門歯科医師が推奨する食形態に相違があると判断したのは47例(34.3%)であった。入院時食形態が嚥下調整食である群は常食群と比較して舌圧が有意に低値であった(p<0.001)。さらに, Maedaら(2020)の報告を参考にOHATを2点以下と3点以上の2群に分けて評価したところ, 入院時食形態と推奨する食形態に相違があった者の割合は, OHAT3点以上の群で有意に高かった(p=0.004)。
【考察】
入院時食形態が嚥下調整食であった症例は, のちの口腔スクリーニングにおいて舌圧との関連が認められたことから, 入院時食形態の選定には妥当性があったと考えられた。一方で, 口腔環境の悪化や口腔機能の低下を示すOHAT高値の対象者においては, 入院時食形態と推奨する食形態に相違があったことから, 入院時食形態の選定にあたってより精度の高いスクリーニング方法の開発や普及が必要であると考えられた。(COI開示:なし)(日本歯科大学 倫理審査委員会 承認番号 NDU-T2019-03) 本研究は科研費(JSPS 科研費 若手研究 19K19337)の助成を受けたものである。
大腿骨骨折が原因の入院患者における術後合併症として肺炎が最も多いという報告があるが, この原因の一つとして考慮すべき口腔環境や口腔機能を整形外科入院の高齢患者において評価した報告は極めて少ない。そこで本研究では, 大腿骨骨折で手術適応となった高齢患者に対し適切な食形態の選定を行うため, 口腔環境と口腔機能の実態調査を行うこととした。
【方法】
2022年の1月から12月の1年間において大腿骨骨折で手術適応となった後期高齢患者151名のうち, 同意の得られた患者137名(男性32名, 女性105名, 平均年齢85.1±6.0歳) を対象とした。摂食嚥下リハビリテーションを専門とする歯科医師(以下,専門歯科医師)1名が, 入院時の口腔スクリーニングとして歯式(現在歯数, 機能歯数)の記録とOral Health Assessment Tool(以下, OHAT), 口腔湿潤度(口腔水分計 ムーカス🄬), 舌圧(JMS舌圧測定器)の評価を行った。さらに, それらの結果を参考に入院時に提供されていた食形態(以下, 入院時食形態)と専門歯科医師が推奨した食形態との関連を検討した。
【結果】
大腿骨骨折の内訳は右67/左70例, 亜部位別では頸部69/転子部55/その他13例であった。OHATは0~12点で分布し, 中央値は5点であった。口腔湿潤度(n=113)と舌圧(n=95)の基準値を満たしていた者はそれぞれ16例(14.2%)と8例(8.4%)で低率であった。入院時食形態が嚥下調整食であった症例は90例(65.7%)であった。口腔スクリーニングの結果から, 入院時食形態と専門歯科医師が推奨する食形態に相違があると判断したのは47例(34.3%)であった。入院時食形態が嚥下調整食である群は常食群と比較して舌圧が有意に低値であった(p<0.001)。さらに, Maedaら(2020)の報告を参考にOHATを2点以下と3点以上の2群に分けて評価したところ, 入院時食形態と推奨する食形態に相違があった者の割合は, OHAT3点以上の群で有意に高かった(p=0.004)。
【考察】
入院時食形態が嚥下調整食であった症例は, のちの口腔スクリーニングにおいて舌圧との関連が認められたことから, 入院時食形態の選定には妥当性があったと考えられた。一方で, 口腔環境の悪化や口腔機能の低下を示すOHAT高値の対象者においては, 入院時食形態と推奨する食形態に相違があったことから, 入院時食形態の選定にあたってより精度の高いスクリーニング方法の開発や普及が必要であると考えられた。(COI開示:なし)(日本歯科大学 倫理審査委員会 承認番号 NDU-T2019-03) 本研究は科研費(JSPS 科研費 若手研究 19K19337)の助成を受けたものである。