The 34th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(ポスター発表)

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ポスター発表3
症例・施設

Sat. Jun 17, 2023 10:00 AM - 10:30 AM ポスター会場 (1階 G3)

座長:伊藤 加代子(新潟大学医歯学総合病院口腔リハビリテーション科)

[P15] 肺癌を有する長期間義歯不使用の高齢患者に対し,上下全部床義歯製作と周術期口腔機能管理を実施した一症例

○武田 紗季1、本釜 聖子2 (1. 愛媛大学大学院医学系研究科 口腔顎顔面外科学講座、2. 愛媛大学医学部附属病院 歯科口腔外科・矯正歯科)

【緒言・目的】
 長期間義歯不使用の患者へ義歯を製作することは難しい。今回,肺癌を有する長期間義歯不使用の後期高齢患者に対し,上下全部床義歯製作と周術期口腔機能管理を実施することにより口腔機能が改善,QOLが向上し,良好な結果が得られたので報告する。

【症例および経過】
 81 歳,男性。咀嚼障害,発音障害を主訴に来科した。現病歴は左上葉肺癌があり,化学放射線療法を予定していた。約35年前に義歯製作され使用していたが,25年前に妻と死別してから使用していなかった。上顎は無歯顎,下顎は残根を有するのみで咬合支持はなかったものの,食事は常食であった。口腔機能精密検査値は,口腔清掃,舌圧,嚥下機能以外の項目で低値を示した。診査・診断の結果,3┐┌2-5残根,上下顎無歯顎による咀嚼・発音・審美障害,口腔機能低下症と診断し,残根の抜歯,上下全部床義歯製作,周術期口腔機能管理を計画した。
 化学放射線療法開始前に3┐┌2-5残根を抜歯した。治療開始後,義歯への慣れ方,義歯装着による機能・効果と周術期口腔機能管理の重要性を説明し,義歯製作と周術期口腔機能管理を行った。義歯装着1か月後,放射線療法は終了し,化学療法のみを継続していた。このとき,主訴である咬みづらさと話しづらさの改善が認められ,義歯への慣れは良好であった。義歯装着6か月後に口腔機能精密検査を実施したところ,咬合力,舌口唇運動機能,咀嚼能率は基準値に満たないものの改善を認めた。発音明瞭度は40.3%から57.8%に改善した。現在も化学療法は継続しており,肺癌治療の副作用として悪心や食欲不振を認めるが,BMI は普通体重を維持できている。OHIP-J54は96から4と改善され,経過良好であり,定期的な義歯管理,周術期口腔機能管理を継続している。
 なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。

【考察】
 患者は義歯装着の煩わしさから長期間義歯不使用であった。しかし,肺癌治療にともない口腔スクリーニングを受け,初めて口腔健康を意識するに至った。義歯装着直後,舌圧は低下していたが,時間経過とともに舌圧と咀嚼能率は改善していた。これは,義歯装着によって咀嚼嚥下が円滑に行われるようになったためと考えられる。今後も義歯管理,周術期口腔機能管理の継続が重要であると考えている。

(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)