The 34th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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一般演題(ポスター発表)

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ポスター発表3
症例・施設

Sat. Jun 17, 2023 10:00 AM - 10:30 AM ポスター会場 (1階 G3)

座長:伊藤 加代子(新潟大学医歯学総合病院口腔リハビリテーション科)

[P16] 嚥下機能を考慮した全部床義歯口蓋形態の形成

○永尾 寛1、藤本 けい子1、水頭 英樹2、後藤 崇晴1、渡邉 恵1、市川 哲雄1 (1. 徳島大学大学院医歯薬学研究部 口腔顎顔面補綴学分野、2. 徳島大学病院 歯科放射線科)

【緒言・目的】
 加齢や脳血管障害の後遺症などにより嚥下機能が低下した患者では,口蓋への舌接触圧を回復させるために,咬合高径や口蓋形態を考慮する必要がある。全部床義歯作製時には,人工歯排列終了後に標準的な研磨面形態を付与し,ろう義歯試適時に発音機能,嚥下機能を確認する。発音機能の確認ではパラトグラムを用いる方法があるが,嚥下機能の確認には明確な指標がなく,術者の経験に寄るところが大きい。
 そこで,ろう義歯試適時に試験的に作成したワックスを用いた嚥下機能を考慮した口蓋形成方法を考案したので報告する。

【症例および経過】
 80歳,男性。X 年 6 月に上下顎全部床義歯を通法により作製・調整後,経過観察を行っていた。顎堤の経年変化に伴いリラインを行うことがあったが,経過は概ね良好であった。
 X+12 年 4 月に食事中のむせを訴え,同年 8 月に口腔機能精密検査を行った結果,低舌圧,嚥下機能低下と診断した。上顎全部床義歯の口蓋部にティッシュコンディショナーを添加し,舌接触補助床に改造したところ嚥下機能は向上した。使用中の全部床義歯は人工歯の咬耗,着色が認められ,患者が義歯の新製を希望したため,通法にしたがって印象採得,咬合採得を行った。ろう義歯試適時にイエローワックス(ジーシー)とソフトプレートワックス(ジーシー)を13:87の重量比で混和し試験的に作成したものを口蓋に添付し,空嚥下と発音を行わせ,嚥下時に正常な舌接触圧が得られるように口蓋形成を行った。
 義歯装着後の経過は良好で,反復唾液嚥下テスト,改訂水飲みテスト,EAT-10で嚥下機能を評価した結果,旧義歯と比べて嚥下機能が向上した。
 なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。

【考察】
 嚥下障害のない健常者における嚥下時の舌接触圧は,歯頚部口蓋側で約15 kPa,口蓋中央・後方部で約7 kPaと報告されている。予備実験の結果,上記2種類のワックスを13:87の重量比で混和したものは,37 ℃の水中において嚥下時の舌接触圧と同等の硬さであった。この結果をもとに,試作ワックスを用いて口蓋の形成を行った。この方法で口蓋形成した義歯は嚥下時の舌接触圧が適切な値となり,良好な結果が得られたものと考える。
 今後は症例数を増やし,今回行った口蓋形成方法の有効性について検討する予定である。
(COI 開示:なし)(倫理審査対象外)