[SL4] 神経難病における栄養療法:疾患修飾治療を目指して
【略歴】
1985年 金沢大学医学部卒業
1985年〜1988年 東京女子医大病院,茅ヶ崎徳洲会病院にて研修
1988年 東京都立神経病院 神経内科勤務
1997年 サンタルチア病院(ローマ)に留学(神経生理学)
1998年 東京都立神経病院に復職
2003年 東京都立神経病院 神経内科医長
2013年 東京都立神経病院 脳神経内科部長
2022年 東京都立神経病院 副院長
【学会役職】
日本神経学会 代議員,ALS診療ガイドライン作成委員
日本臨床神経生理学会 代議員
日本神経治療学会 評議員,緩和ケアガイドライン作成委員
日本神経摂食嚥下・栄養学会 理事
日本難病医療ネットワーク学会 評議員
【受賞歴】
2020年度日本神経治療学会治療活動賞「筋萎縮性側索硬化症の栄養・代謝障害に対する治療法の確立を目指して」
1985年 金沢大学医学部卒業
1985年〜1988年 東京女子医大病院,茅ヶ崎徳洲会病院にて研修
1988年 東京都立神経病院 神経内科勤務
1997年 サンタルチア病院(ローマ)に留学(神経生理学)
1998年 東京都立神経病院に復職
2003年 東京都立神経病院 神経内科医長
2013年 東京都立神経病院 脳神経内科部長
2022年 東京都立神経病院 副院長
【学会役職】
日本神経学会 代議員,ALS診療ガイドライン作成委員
日本臨床神経生理学会 代議員
日本神経治療学会 評議員,緩和ケアガイドライン作成委員
日本神経摂食嚥下・栄養学会 理事
日本難病医療ネットワーク学会 評議員
【受賞歴】
2020年度日本神経治療学会治療活動賞「筋萎縮性側索硬化症の栄養・代謝障害に対する治療法の確立を目指して」
【抄録(Abstract)】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を始めとし,パーキンソン病,多系統萎縮症,SCA3,ハンチントン病など,多くの変性疾患において体重減少を来すことが知られている。その原因として,嚥下障害によるエネルギー摂取不足,運動症状(筋萎縮,筋固縮,不随意運動等)によるエネルギー消費量の変化のほかに,それぞれの疾患に特異的な原因があることが想定される。ALSにおいては古くから体重減少が独立した生命予後予測因子であることが確立されているが,近年になりそのメカニズムや治療戦略について多くの研究成果が報告されるようになってきた。とくに,疾患特異的とされる基礎代謝の亢進,脂質代謝へのfuel switch,体重減少と視床下部へのTDP-43蛋白の蓄積との関連,食思不振のメカニズムなどの報告が相次いでなされ,また高脂肪高カロリー食治療や診断後の体重維持が生命予後を改善させるという報告も散見されるようになってきた。しかも高カロリー食治療が,神経変性のバイオマーカーであるリン酸化ニューロフィラメントの増加を抑制することも報告された。現時点においてALSの薬物治療の効果は非常に限定的であるが,栄養療法は薬物療法を上回る生命予後改善効果をもたらす可能性があり,安価で副作用のほとんどない高カロリー食療法が新たな疾患修飾治療として脚光を浴びはじめている。
パーキンソン病も体重減少を来す代表的な疾患である。体重減少の原因は複雑であり,嗅覚異常,嚥下・咀嚼障害によるエネルギー摂取障害,消化管運動機能障害,うつ症状,内分泌異常,中枢性食思不振などのほか,振戦や筋強剛などによるエネルギー代謝更新が原因となる。ALSと異なるのは,(1)薬物療法により体重が増加すること,(2)体重は寡動・無動と振戦・筋強剛のバランスに影響されること,(3)不顕性誤嚥が多いこと,(4)進行期には認知機能障害が必発であること,などである。病初期の体重減少が長期予後を規定するかどうかについては確立されたエビデンスはない。一方進行期には著しい体重減少を来すが,胃瘻造設の基準や,有効な栄養療法はいまだに確立されていないが,一般的にはかなりの高カロリー療法をしても体重は増加しない。ヤールVの認知症併発期の胃瘻造設については倫理的問題を含めた指針は日本にはなく,今後の課題である。
そのほか多系統萎縮症や脊髄小脳変性症,ハンチントン病などにおける栄養療法はその意義も含めて報告が非常に乏しいのが現状である。栄養療法は生命維持のみならず「生活の質」の向上や合併症予防のためには非常に重要な課題であり,臨床的エビデンスの蓄積が今後の喫緊の課題である。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を始めとし,パーキンソン病,多系統萎縮症,SCA3,ハンチントン病など,多くの変性疾患において体重減少を来すことが知られている。その原因として,嚥下障害によるエネルギー摂取不足,運動症状(筋萎縮,筋固縮,不随意運動等)によるエネルギー消費量の変化のほかに,それぞれの疾患に特異的な原因があることが想定される。ALSにおいては古くから体重減少が独立した生命予後予測因子であることが確立されているが,近年になりそのメカニズムや治療戦略について多くの研究成果が報告されるようになってきた。とくに,疾患特異的とされる基礎代謝の亢進,脂質代謝へのfuel switch,体重減少と視床下部へのTDP-43蛋白の蓄積との関連,食思不振のメカニズムなどの報告が相次いでなされ,また高脂肪高カロリー食治療や診断後の体重維持が生命予後を改善させるという報告も散見されるようになってきた。しかも高カロリー食治療が,神経変性のバイオマーカーであるリン酸化ニューロフィラメントの増加を抑制することも報告された。現時点においてALSの薬物治療の効果は非常に限定的であるが,栄養療法は薬物療法を上回る生命予後改善効果をもたらす可能性があり,安価で副作用のほとんどない高カロリー食療法が新たな疾患修飾治療として脚光を浴びはじめている。
パーキンソン病も体重減少を来す代表的な疾患である。体重減少の原因は複雑であり,嗅覚異常,嚥下・咀嚼障害によるエネルギー摂取障害,消化管運動機能障害,うつ症状,内分泌異常,中枢性食思不振などのほか,振戦や筋強剛などによるエネルギー代謝更新が原因となる。ALSと異なるのは,(1)薬物療法により体重が増加すること,(2)体重は寡動・無動と振戦・筋強剛のバランスに影響されること,(3)不顕性誤嚥が多いこと,(4)進行期には認知機能障害が必発であること,などである。病初期の体重減少が長期予後を規定するかどうかについては確立されたエビデンスはない。一方進行期には著しい体重減少を来すが,胃瘻造設の基準や,有効な栄養療法はいまだに確立されていないが,一般的にはかなりの高カロリー療法をしても体重は増加しない。ヤールVの認知症併発期の胃瘻造設については倫理的問題を含めた指針は日本にはなく,今後の課題である。
そのほか多系統萎縮症や脊髄小脳変性症,ハンチントン病などにおける栄養療法はその意義も含めて報告が非常に乏しいのが現状である。栄養療法は生命維持のみならず「生活の質」の向上や合併症予防のためには非常に重要な課題であり,臨床的エビデンスの蓄積が今後の喫緊の課題である。