[SY12-2] 歯科は人生の最期に寄り添えるか
【略歴】
ヒューマンデンタルクリニック 飯田良平
鶴見大学歯学部口腔リハビリテーション補綴学講座 非常勤講師
博士(歯学)H23.3.16鶴見大学鶴見大学歯学部
【学歴・職歴】
平成9年 3月 鶴見大学歯学部歯学科 卒業
平成9年 4月 鶴見大学歯学部附属病院 臨床研修歯科医(高齢者歯科学講座)
平成10年 4月 鶴見大学歯学部附属病院 診療科助手
平成13年1月 鶴見大学歯学部 助手(高齢者歯科学講座)~助教に至る
摂食嚥下リハビリテーション外来主任
平成30年3月退職、同4月より下記医療機関を兼務
鶴見大学歯学部附属病院高齢者歯科
横浜市歯科保健医療センター(嚥下外来・訪問診療)
東京都立神経病院
吉武歯科医院
医療法人社団東京愛成会高月病院(精神科)
藤沢市口腔保健センター
横浜市立みなと赤十字病院
令和2年4月より 医療法人社団為世為人会ヒューマンデンタルクリニック 院長
【所属学会・研究会】
日本老年歯科医学会(指導医・専門医・摂食機能療法専門歯科医師)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会(評議員)
神奈川摂食嚥下リハビリテーション研究会(副会長)
日本障害者歯科学会
日本老年行動科学会 など
ヒューマンデンタルクリニック 飯田良平
鶴見大学歯学部口腔リハビリテーション補綴学講座 非常勤講師
博士(歯学)H23.3.16鶴見大学鶴見大学歯学部
【学歴・職歴】
平成9年 3月 鶴見大学歯学部歯学科 卒業
平成9年 4月 鶴見大学歯学部附属病院 臨床研修歯科医(高齢者歯科学講座)
平成10年 4月 鶴見大学歯学部附属病院 診療科助手
平成13年1月 鶴見大学歯学部 助手(高齢者歯科学講座)~助教に至る
摂食嚥下リハビリテーション外来主任
平成30年3月退職、同4月より下記医療機関を兼務
鶴見大学歯学部附属病院高齢者歯科
横浜市歯科保健医療センター(嚥下外来・訪問診療)
東京都立神経病院
吉武歯科医院
医療法人社団東京愛成会高月病院(精神科)
藤沢市口腔保健センター
横浜市立みなと赤十字病院
令和2年4月より 医療法人社団為世為人会ヒューマンデンタルクリニック 院長
【所属学会・研究会】
日本老年歯科医学会(指導医・専門医・摂食機能療法専門歯科医師)
日本摂食嚥下リハビリテーション学会(評議員)
神奈川摂食嚥下リハビリテーション研究会(副会長)
日本障害者歯科学会
日本老年行動科学会 など
【抄録(Abstract)】
父を看取り7年目となる。今でも「あの時こうしていたら」と自責の念が現れる。アドバンスケアプランニング(ACP)では、療養や生活で大切にしたいこと。食事ができなくなった場合の人工的な栄養補給などを話し合うわけであるが、ステージ4の宣告で落ち込んでいた父とそのような話はできなかった。しかし最期の時間を過ごす場所について尋ねたことがあった。「海の見えるところもいいなあ」と父は言った。趣味もない父だったので海が好きだったのかと驚いて聞き直すと、やはり「うん」と言った。そんなことさえ子供として知らなかったのかと、もっとたわいもない話をする時間を作るべきだったと涙がでた。
大学病院時代にある患者さんが笑いながら言った。「先生ごめんなさいね。私も年をとるのは初めてなもので。どうしたら良いのか分からないんです」と。口の中が汚れたまま来院することが徐々に増え心配していた方だった。衰えていく自分に苦慮しながら、でもそんな自分を受容しようと、穏やかに頑張っていた。「初めてなもので……」素晴らしい言葉である。そうだ、私も老いる父をみるのも看取りも初めてであった。手続きから何やら、するべきことが次々にやってきて、分からないことばかりだった。そしてあれよあれよという間に最後が来てしまった。
人は皆他人の為、世の中の為に役に立ちたいと思っている。私たち歯科も人生の最期に尽力したいと思っている。しかし人生会議や人工的な水分や栄養補給の決定に際して声のかかることは少ない。歯科は口を通して最後まで人に関われる仕事であり、最終段階では人における「口」の意味を考えることが必要である。
当クリニックは「最期まで尊厳のある口」をモットーとしている。ひとつは最後まで口から食べられるように支援を行うことである。たとえ口から食べることが困難であっても、飴をなめたり、潤したり、心地良い関わりを模索する。もう一つは最後まで清潔であり痛みのない口でいられるように支援を行うことである。劣悪な口であっても歯科のプライドをかけてきれいにする。
今後、歯科においてもACPに関わる機会が 徐々に増えるだろう。患者や家族、医療や介護スタッフにより思いや望む展望も多用であるし、皆がケース毎に「はじめて」なわけである。正解は無いし、一つでもない。その中で、食べたいという意思に寄り添い支えることのできるスキルを有し、最後まできれいな口である尊厳を守ることが、我々歯科の大きな使命であると思う。言うまでもなくこの柱となるのが歯科衛生士である。歯科医師は研鑽を積む機会を与え、医療や介護の輪の中で歯科の役割を堂々と教示し立ち回ることのできる歯科衛生士に成長してもらうことを願っている。そのためにしっかりと後ろ盾になり歯科衛生士を支えることも重要であろう。症例を供覧しながら歯科にできる素晴らしい仕事について皆様と検討したい。
父を看取り7年目となる。今でも「あの時こうしていたら」と自責の念が現れる。アドバンスケアプランニング(ACP)では、療養や生活で大切にしたいこと。食事ができなくなった場合の人工的な栄養補給などを話し合うわけであるが、ステージ4の宣告で落ち込んでいた父とそのような話はできなかった。しかし最期の時間を過ごす場所について尋ねたことがあった。「海の見えるところもいいなあ」と父は言った。趣味もない父だったので海が好きだったのかと驚いて聞き直すと、やはり「うん」と言った。そんなことさえ子供として知らなかったのかと、もっとたわいもない話をする時間を作るべきだったと涙がでた。
大学病院時代にある患者さんが笑いながら言った。「先生ごめんなさいね。私も年をとるのは初めてなもので。どうしたら良いのか分からないんです」と。口の中が汚れたまま来院することが徐々に増え心配していた方だった。衰えていく自分に苦慮しながら、でもそんな自分を受容しようと、穏やかに頑張っていた。「初めてなもので……」素晴らしい言葉である。そうだ、私も老いる父をみるのも看取りも初めてであった。手続きから何やら、するべきことが次々にやってきて、分からないことばかりだった。そしてあれよあれよという間に最後が来てしまった。
人は皆他人の為、世の中の為に役に立ちたいと思っている。私たち歯科も人生の最期に尽力したいと思っている。しかし人生会議や人工的な水分や栄養補給の決定に際して声のかかることは少ない。歯科は口を通して最後まで人に関われる仕事であり、最終段階では人における「口」の意味を考えることが必要である。
当クリニックは「最期まで尊厳のある口」をモットーとしている。ひとつは最後まで口から食べられるように支援を行うことである。たとえ口から食べることが困難であっても、飴をなめたり、潤したり、心地良い関わりを模索する。もう一つは最後まで清潔であり痛みのない口でいられるように支援を行うことである。劣悪な口であっても歯科のプライドをかけてきれいにする。
今後、歯科においてもACPに関わる機会が 徐々に増えるだろう。患者や家族、医療や介護スタッフにより思いや望む展望も多用であるし、皆がケース毎に「はじめて」なわけである。正解は無いし、一つでもない。その中で、食べたいという意思に寄り添い支えることのできるスキルを有し、最後まできれいな口である尊厳を守ることが、我々歯科の大きな使命であると思う。言うまでもなくこの柱となるのが歯科衛生士である。歯科医師は研鑽を積む機会を与え、医療や介護の輪の中で歯科の役割を堂々と教示し立ち回ることのできる歯科衛生士に成長してもらうことを願っている。そのためにしっかりと後ろ盾になり歯科衛生士を支えることも重要であろう。症例を供覧しながら歯科にできる素晴らしい仕事について皆様と検討したい。