[SY5-1] 最期まで口から食べるを支援する:認知症の人のComfort feeding onlyの考え方
![](https://confit-sfs.atlas.jp/customer/gero34/SY5-01.png)
平成15年 北海道大学歯学部卒業
平成15年 東京都老人医療センター 歯科・口腔外科
平成17年 東京歯科大学オーラルメディシン・口腔外科学講座
平成20年 東京都健康長寿医療センター研究所 協力研究員
平成23年 学位取得、博士(歯学)東京歯科大学
平成24年 東京都豊島区口腔保健センターあぜりあ歯科診療所勤務
東京都健康長寿医療センター研究所 非常勤研究員
平成27年 東京都健康長寿医療センター研究所 研究員
令和4年 北海道大学非常勤講師
【学会】
日本老年歯科医学会 認定医 摂食機能療法専門歯科医師
日本老年医学会 TNT-Geri・高齢者医療研修会修了 高齢者栄養療法認定医
ほか
【著書】
「エンドオブライフケア」(共著)日本エンドオブライフケア協会、2022年7月
「認知症Plus 「食」を支えるケア 食事介助のコツから栄養ケア・口腔ケアまでわかるQ&A44」日本看護協会出版会、2022年5月
ほか
【抄録(Abstract)】
認知症の進行に伴い周囲の物事の見当識が曖昧になり、日常生活行動の自立が困難になっていく中で、ご本人にとっての「食」は最後の自立行動です。認知症が進行し重度認知症に至っては、口腔咽頭の協調運動にまで障害が生じることで、咀嚼が不完全になり口腔内の移送は協調を失い、嚥下反射の惹起遅延が生じるようになります。回復を目指したアプローチが本人の過度な疲労につながってしまうケース、栄養強化するにも経口摂取自体が肺炎リスクを上昇させてしまい困難であると判断されるケースもあるでしょう。
経口摂取が困難となってきた認知症の人の緩和ケアでは「comfort(快適さ)」を保つことが重要視されます。口腔のcomfortは、口腔の不快症状の予防、保湿と衛生を含む質の良い口腔ケアを目指します。では食のComfortは何か、最期の栄養摂取の適切なあり方は何かがいま議論されているところです。
全量摂取が難しくなってきたときに、積極的に介助摂食を行うことでむせや誤嚥が生じ、結果として肺炎発症に至ることは本人の苦痛になります。ごく少量の経口摂取が本人のcomfort であるならば、安全に配慮したうえで、ごく少量の好きなものを経口摂取して、看取りにいたることは自然である、こういった考え方は“Comfort feeding only”と表現されます。仮にそれが低栄養とさらなる機能低下を抑制できなかったとしても、人として生きた自然経過なのであると家族も納得できる状況を創り出していく考えです。当然その経過のなかでは医療・介護の専門職と家族との対話が繰り返しなされる必要があり、医学的見解の押し付けではなく、家族の一方的な希望だけではなく、本人の価値観や人生観を知る家族が本人の人生の幕引きとして納得できるように対話を進めながら、本人が少しでもComfortであるようにケアを行わなければなりません。ACP(Advance Care Planning)は、何も心肺蘇生の話だけではありません。最期のときの経口摂取をどうしたいか、も何度も話し合い、本人が望むなら、誤嚥性肺炎リスクに配慮し本人の機能にあわせたcareful hand feedingで、好きなものを、可能な範囲で、経口摂取することは終末期の生活の質(Quality of End-of-life care)を保つでしょう。少量の経口摂取と清潔で潤った口腔で少しでもコミュニケーションがとれることは、本人と社会とのつながりを維持することです。これらは、一人の人間が健やかに自分らしく暮らすためのPrimary health careのひとつであり、基本的人権です。
The Ethics Committee of AMDA The Society for Post-Acute and Long-Term Care Medicine(米国メディカルディレクター協会急性期・長期療養学会倫理委員会)はComfort feeding onlyを推奨し、さらにそれの安全かつ効果的な実施のためのトレーニングを奨励しています。またWorld Alzheimer Report 2022には認知症と診断された時点で将来の摂食嚥下機能低下があることを予期して、本人が自分のケアを決められるようにすることを推奨すると書かれました。これに関連した海外の議論についても話題提供します。
認知症の進行に伴い周囲の物事の見当識が曖昧になり、日常生活行動の自立が困難になっていく中で、ご本人にとっての「食」は最後の自立行動です。認知症が進行し重度認知症に至っては、口腔咽頭の協調運動にまで障害が生じることで、咀嚼が不完全になり口腔内の移送は協調を失い、嚥下反射の惹起遅延が生じるようになります。回復を目指したアプローチが本人の過度な疲労につながってしまうケース、栄養強化するにも経口摂取自体が肺炎リスクを上昇させてしまい困難であると判断されるケースもあるでしょう。
経口摂取が困難となってきた認知症の人の緩和ケアでは「comfort(快適さ)」を保つことが重要視されます。口腔のcomfortは、口腔の不快症状の予防、保湿と衛生を含む質の良い口腔ケアを目指します。では食のComfortは何か、最期の栄養摂取の適切なあり方は何かがいま議論されているところです。
全量摂取が難しくなってきたときに、積極的に介助摂食を行うことでむせや誤嚥が生じ、結果として肺炎発症に至ることは本人の苦痛になります。ごく少量の経口摂取が本人のcomfort であるならば、安全に配慮したうえで、ごく少量の好きなものを経口摂取して、看取りにいたることは自然である、こういった考え方は“Comfort feeding only”と表現されます。仮にそれが低栄養とさらなる機能低下を抑制できなかったとしても、人として生きた自然経過なのであると家族も納得できる状況を創り出していく考えです。当然その経過のなかでは医療・介護の専門職と家族との対話が繰り返しなされる必要があり、医学的見解の押し付けではなく、家族の一方的な希望だけではなく、本人の価値観や人生観を知る家族が本人の人生の幕引きとして納得できるように対話を進めながら、本人が少しでもComfortであるようにケアを行わなければなりません。ACP(Advance Care Planning)は、何も心肺蘇生の話だけではありません。最期のときの経口摂取をどうしたいか、も何度も話し合い、本人が望むなら、誤嚥性肺炎リスクに配慮し本人の機能にあわせたcareful hand feedingで、好きなものを、可能な範囲で、経口摂取することは終末期の生活の質(Quality of End-of-life care)を保つでしょう。少量の経口摂取と清潔で潤った口腔で少しでもコミュニケーションがとれることは、本人と社会とのつながりを維持することです。これらは、一人の人間が健やかに自分らしく暮らすためのPrimary health careのひとつであり、基本的人権です。
The Ethics Committee of AMDA The Society for Post-Acute and Long-Term Care Medicine(米国メディカルディレクター協会急性期・長期療養学会倫理委員会)はComfort feeding onlyを推奨し、さらにそれの安全かつ効果的な実施のためのトレーニングを奨励しています。またWorld Alzheimer Report 2022には認知症と診断された時点で将来の摂食嚥下機能低下があることを予期して、本人が自分のケアを決められるようにすることを推奨すると書かれました。これに関連した海外の議論についても話題提供します。