一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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認定医審査ポスター

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認定医審査ポスター

2024年6月28日(金) 14:40 〜 16:10 ポスター会場 (大ホールC)

[認定P-34] 前頭側頭葉変性症患者に対し全身状態に合わせて診療形態を変更した症例

○濵 陽子1、吉田 光由2 (1. 広島口腔保健センター、2. 藤田医科大学医学部歯科口腔外科学講座)

【緒言・目的】
 前頭側頭葉変性症は主として初老期に発症し,人格変化や行動障害,失語症,認知機能障害,運動障害などが緩徐に進行する。これらの臨床症状から意思疎通や指示動作が困難となることが多く,歯科治療に難渋することが報告されている。今回,前頭側頭葉変性症患者に対し全身状態の変化に合わせて診療形態を変更しながら長期に口腔健康管理を実施した症例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 66歳,女性。56歳頃から話し声が小さくなり,過食,注意力低下,性格変化がみられ,頭部MRI,脳血流SPECTが施行され前頭側頭葉変性症と診断された。病状の進行が早く初診時の61歳時には自発性低下や歩行障害が認められ,拒否反応も強く意思疎通は困難であった。体重は家族からの問診で60㎏,要介護度5,ADLは全介助,食事形態は常食,自宅での口腔衛生管理が困難であり多数歯のう蝕を認めていたが,歯科治療時に拒否行動が強くこれまで歯科治療が出来ていなかった。治療はまず口腔環境を整えるために静脈内鎮静下で4回,左側上下大臼歯の抜歯と残存歯10本のう蝕処置を実施した。その後は家族が通院介助できる2か月に1回のペースで口腔衛生指導を実施し,拒否なく口腔衛生管理が実施できるまでになった。初診2年後には補綴物脱離による保存困難歯を抜歯したが,この頃には拒否反応も乏しくモニター管理下での処置が可能であった。その後も同様のペースで定期的に口腔健康管理を実施していたが,徐々に開口出来なくなり初診4年後には体重45㎏と10㎏以上の体重減少があり身体拘縮によりユニットへの移乗も困難となっていた。家族の通院負担も増えてきたため初診5年後には訪問診療へと移行,その頃には食事形態はペースト食,口腔内に食渣が残ることが多く舌苔の付着もみられた。1か月に1回の訪問診療で7か月,永眠まで看取ることができた。なお,本報告の発表については患者家族から文書による同意を得ている。
【考察】
 本症例は5年間の認知機能や身体機能の低下様相に合わせて診療形態を変えることで最期まで口腔健康管理を継続することができた。患者の病態の進行を見据えて治療できるうちに静脈内鎮静法を用いて全顎的な歯科治療を実施し,長期的に口腔衛生管理を実施しやすい口腔を構築できたことが,看取りに至るまでの口腔健康管理につながったものと考える。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)