一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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百寿者の医学的特徴

2024年6月30日(日) 09:40 〜 10:30 第1会場 (大ホールAB)

座長:池邉 一典(大阪大学大学院歯学研究科 有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野)

企画:学術委員会

[教育講演] 百寿者の医学的特徴

○新井 康通1,2 (1. 慶応義塾大学看護医療学部 、2. 慶応義塾大学医学部百寿総合研究センター)

【略歴】
慶應義塾大学看護医療学部/医学部百寿総合研究センター 教授 新井康通
平成3年3月  慶應義塾大学医学部卒業
平成3年4月 慶應義塾大学医学部研修医(老年科学)
平成16年4月 英国ニューカッスル大学 Institute of Ageing and Health 客員研究員
平成26年4月 慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター 専任講師
令和3年4月 慶應義塾大学看護医療学部 教授、慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター 兼担教授
令和4年4月 慶應義塾大学医学部百寿総合研究センター長

【所属学会】
日本内科学会総合内科専門医・指導医
日本老年医学会評議員、老年病専門医、指導医
日本動脈硬化学会評議員、動脈硬化専門医
日本臨床栄養学会評議員・臨床栄養協会評議員
日本プライマリ・ケア連合学会認定医
【抄録(Abstract)】
日本人の平均寿命は男性81.05歳、女性 87.09歳(令和4年年簡易生命表)で、今後もゆるやかながら寿命は延びる傾向にある。人生100年時代を楽しく豊かに過ごすためには、超高齢期まで健康と身体の機能を維持することがますます重要となる。百寿者は人生の大半を自立して生活していることから、ヒトの健康長寿モデルと考えられる。慶應義塾大学では、1992年から30年以上にわたって百寿者の調査を実施しており、百寿者は動脈硬化や糖尿病になりにくく、心血管性疾患のリスクが低いことを明らかにした。さらに、2002年からは全国105歳(超百寿者)調査を開始し、現在までに約1000名規模の百寿者、超百寿、スーパーセンチナリアン(110歳以上)の3つの長寿コホートを確立した。これらの長寿コホートの比較によって、究極の健康長寿の達成にはフレイルの予防、認知機能の維持が重要であることが見えてきた。また、血液バイオマーカーと生存率の関連を前向きに検証した解析では、NT-proBNP(心機能), シスタチンC(腎機能), コリンエステラーゼ(肝合成能)、インターロイキン-6(炎症)、アルブミン(栄養)が生命予後と関連しており、重要臓器の老化と炎症、栄養状態がヒトの最長寿命を規定している可能性を見出した。
こうした百寿者の医学的特徴の背景に、どのような生活習慣、環境因子が関与しているだろうか?私たちは、百寿者の生活習慣として「食」に注目し、34名の百寿者に対し3日間の食事記録調査を行った。平均すると百寿者の摂取エネルギーは体重あたり約30kcal/kgであり、成人と同程度のエネルギーやタンパク摂取量を確保していることがわかった。食品としては乳類、菓子・砂糖類、果実の摂取が多く、穀類、肉、魚、油脂の摂取が少なかった。甘いもの、柔らかいものを好む傾向がみられ、味覚や口腔機能の低下が100歳時点の食習慣に影響を与えていることがうかがわれた。さらに、85歳以上の高齢者コホートにおいて簡易型自記式食事歴法調査票により、食習慣と健康指標(認知機能、握力、歩行機能、頸動脈硬化など)との関連を調べた。その結果、魚に多く含まれるEPAとDHAの摂取量が多い方がフレイルの診断項目である歩行機能が良く保たれており、オメガ3系不飽和脂肪酸の抗炎症作用との関連が示唆された。百寿総合研究センターでは、百寿者、超高齢者コホートの縦断調査を通じて、どのような遺伝因子、食生活や運動習慣が健康長寿につながるか検証を行い、健康長寿社会の実現に向けた科学的エビデンスの創出を目指している。