一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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一般演題(口演発表)

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一般口演3
実態調査

2024年6月29日(土) 13:10 〜 14:10 第4会場 (107+108会議室)

座長:大久保 真衣(東京歯科大学口腔健康科学講座摂食嚥下リハビリテーション研究室)、権田 知也(大阪大学大学院歯学研究科 有床義歯補綴学・高齢者学講座)

[O3-5] 歯科疾患実態調査による無歯顎者の割合のAge-Period-Cohort分析

○那須 郁夫1、中村 隆2 (1. 東京都健康長寿医療センター研究所,日本大学、2. 統計数理研究所)

【目的】
近年の日本人歯数の改善に伴い,無歯顎者が減少している実態がある。本研究は,過去8回の歯科疾患実態調査資料に対してcohort分析を実施し,無歯顎者の割合の変遷について,時代・年齢・出生世代の3方向から検討することを目的とする。
【方法】
資料は,同調査の1975年から2016年までの8回分について,永久歯の歯のない者の割合から求めた無歯顎者率である。まず,分析の基礎となる性・年齢別(15歳以上の15年齢階級×8回)のcohort表を作成した。この表を基に,等計量線図による俯瞰的観察をおこない,次いで中村のBayesian Cohort Modelによるcohort分析を施して,時代・年齢・cohort(生れ年/世代)効果を分離し検討した。
【結果と考察】
等計量線図:調査回が進むにつれ,無歯顎者が出現する最低年齢は上昇し,2016年の男性では55歳階級,女性では60歳階級であった。65歳時点でみると,1975~2016年の間に男性は21%が3%に,女性は33%が1%に,また,80歳では,同期間に男性は56%が12%に,女性は61%が12%にそれぞれ減少していた。1987年調査以前とそれ以降では,等高線の走行方向がおおむね縦方向から右斜め方向に変わり,世代が若くなるにつれて同年齢の無歯顎者は減少していた。
cohort分析:男女ともに無歯顎者が出現する35歳以上を分析対象とした。年齢効果は,無歯顎者が年齢とともに増加する言わば「自然」な姿を示していた。時代効果は,他の2効果に比してほとんど観察されなかった。cohort効果は,ほぼ一貫して減少していた。すなわち,明治生れで高く始まり,昭和生れで減少の速度を増し,昭和30年生れ前後の世代までに大幅な減少を見せた。その後の世代では,無歯顎者の割合が僅かになってきたため,この効果の変化が止まる方向にあった。
以上,1980年生れまでの約百年間に生れた日本人の無歯顎者について,主に高齢者に焦点を当てて観察した。加齢によって無歯顎者が増える現実を確認するところとなる一方,生れ世代が若くなるにつれて無歯顎者が減少し,今後高齢期を迎える世代は「歯のない人」がほぼいない世代となることも示された。
これらから,「歯の保全」は歯科界が挙げて取り組むべき社会貢献の中心であるという認識さらに深めた。(COI開示:なし)(倫理審査対象外)