一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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一般演題(口演発表)

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一般口演7
症例・施設2

2024年6月30日(日) 13:10 〜 14:10 第4会場 (107+108会議室)

座長:寺中 智(足利赤十字病院リハビリテーション科)、山内 智博(がん・感染症センター都立駒込病院歯科口腔外科)

[O7-1] 積極的な食上げによって栄養状態の改善を得た脳幹梗塞発症後の1例

○三浦 康寛1、安井 由紗佳1、芥川 礼奈1、野原 幹司2 (1. なかたに歯科クリニック訪問部、2. 大阪大学歯学部附属病院 顎口腔機能治療部)

【緒言・目的】 
 摂食嚥下機能の改善が期待しにくい患者において、意欲を保ちながらリハビリテーションを継続していくことは難しい。今回食事中にムセが多く、栄養状態が低かった脳幹梗塞発症後の患者に対し積極的な食上げによって意欲を保つことができ、栄養状態の改善を得た症例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 78 歳、男性。複数回の脳梗塞の既往あり、今回4回目の発症では脳幹梗塞を認め嚥下障害をきたした。食事形態は水分とろみ対応、ソフト食となり退院したが、摂食時にむせが多くあるため嚥下機能評価目的に当院を紹介された。初回の評価では咽頭部に唾液貯留あり、食物の咽頭残留あるが、食物による明らかな誤嚥は認めなかった。後遺症としての吃逆があり、むせの原因としては嚥下反射のタイミングのずれによるものと考えた。対応として姿勢調整や、食事摂取のペース指導、嚥下の意識化を伝え、喀出力維持のため呼吸リハビリを指導した。経過中に臀部に発赤を認め褥瘡発症のリスクが高い状態となったため、当院管理栄養士による栄養指導も開始した。しかし患者は病識が乏しく、食事形態にも不満があり指導などへの協力度の低下を認めた。そこで意欲の向上のため患者の希望する食上げが可能か検討した。嚥下機能評価では咽頭部の唾液貯留の減少は認めるも食物の残留は変わらなかった。しかし咳嗽がしっかりできること、経過中に発熱など誤嚥性肺炎を疑う所見がなかったことより食上げを行った。食上げ後は喫食率も高くなり指導への協力度、意欲も向上した。食事中のむせは続くが体調不良なく、体重の増加を認め栄養状態の改善を得た。現在臀部の発赤もなく経過している。
【考察】 
 脳梗塞後遺症により生じた嚥下障害は慢性期になると機能改善が困難な場合も多くある。生活の質(QOL)を向上するために食上げは大きな割合を占めるが、嚥下機能の改善がない場合には躊躇する。本症例では「むせながらでも誤嚥性肺炎にならなければよい」という目標をたて「侵襲」と「抵抗」のバランスを考慮し積極的な食上げを行った。その結果意欲の向上だけでなく、栄養状態の改善にもつながった。食上げは患者のQOLの改善だけでなく栄養状態の改善も期待できるため常に検討した方がよい。
なお、本報告の発表について患者本人から文章による同意を得ている。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)