一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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症例・施設-3(質疑応答)

2024年6月30日(日) 10:40 〜 11:40 ポスター会場 (大ホールC)

[P-109] 歯科衛生士のきめ細かな口腔機能管理が自覚症状の乏しい口腔機能低下症患者の機能向上につながった症例

○松永 千慧1、飯干 由茉1、竜 正大2、上田 貴之2 (1. 東京歯科大学水道橋病院歯科衛生士部、2. 東京歯科大学老年歯科補綴学講座)

【緒言・目的】
口腔機能低下症は進行が緩徐で自覚症状に乏しいため、患者が口腔機能への関心をもつことが難しいケースが散見される。今回、自覚症状の乏しい口腔機能低下症患者に対し歯科衛生士が介入し、来院間隔を短くし、患者の関心に合わせたきめ細かな管理を行うことで機能向上につながった症例を経験したので報告する。
【症例および経過】
 87歳の男性。上顎部分歯列欠損に対し2年前に義歯を装着し、3か月毎に定期診査を行っていた。「最近、食事の時間が長くなった」という訴えが担当医に対しあったため、口腔機能精密検査を実施した。口腔衛生状態不良、咬合力低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧の4項目が該当し、口腔機能低下症と診断された。患者は口腔機能低下の自覚はなく、口腔機能に対する関心も低かった。まず動機づけのため、道具を使わずに訓練のできる咬合力と舌口唇運動機能の向上を目標とし、噛みごたえのある食品の摂取と発音訓練、舌鳴らし訓練を指導した。来院頻度を約1か月毎に短縮し、患者の気持ちに寄り添いながら段階的に指導を行うこととした。1か月後、未だ機能検査への興味は乏しいものの、舌口唇運動機能が向上したため器具を使用した舌抵抗訓練に移行した。3か月後には咬合力が診断時の340.8Nから561.9Nへ向上した。検査結果を比較しながら指導を重ねることで、口腔内に興味を持ち始めている様子がみられた。5か月後には検査結果に対し自分の感情を表現するようになった。舌口唇運動機能は診断時に「パ」5.4回/秒「タ」4.8回/秒であったものが共に6.4回/秒へと向上した。舌抵抗訓練は器具の硬さから継続が困難であったため、器具の硬さを1段階落として訓練を継続した。6か月後には咬合力と舌口唇運動機能の「パ」「タ」が向上して基準値を超えたが、舌圧は基準値に至っていない。引き続ききめ細やかな指導を行うことで患者の口腔内に対する意識の維持を支援し、更なる口腔機能の向上をはかる予定である。
本報告の発表について、患者本人から文書での同意を得ている。
【考察】
 本症例は口腔機能低下の自覚症状がなく口腔機能への関心の乏しい患者に対し、歯科衛生士が介入し口腔機能管理を行ったものである。約1か月毎の短い間隔でのきめ細やかな指導を行い、2か月毎に機能検査を行ってフィードバックすることにより、患者の口腔機能に対する意識を高め機能を向上させることができた。
(COI開示:なし)
(倫理審査対象外)