一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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症例・施設-3(質疑応答)

2024年6月30日(日) 10:40 〜 11:40 ポスター会場 (大ホールC)

[P-112] 臼後部扁平上皮癌を有する高齢患者への周術期口腔管理の経験

○佐藤 瞳1、鈴木 瞳1,2、岡田 光純1,3、宮島 沙紀1、水野 留理子1、石井 萌子1、日高 玲奈1,4、鈴木 啓之1,3、松尾 浩一郎1,4 (1. 東京医科歯科大学病院オーラルヘルスセンター、2. 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔健康教育学分野、3. 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野、4. 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科地域・福祉口腔機能管理学分野)

【緒言・目的】
 近年,高齢頭頸部がん患者の割合は増加し,支持療法としての口腔健康管理の重要性も増している。今回,疾患および加齢に伴う機能低下により口腔管理が困難であった高齢臼後部扁平上皮癌患者の周術期口腔管理を経験したので報告する。
【症例および経過】
 87歳,男性。2023年10月,当院頭頸部外科の紹介にて,右臼後部扁平上皮癌手術における周術期口腔管理を目的に当科を受診した。上顎右側第二大臼歯相当部歯肉から翼突下顎ヒダにかけて腫瘍性病変を認め,疼痛による開口障害を認めた。Plaque control record(以下PCR)は86%と衛生状態不良であり,歯周組織検査より4㎜以上の歯周ポケットの割合は58%、出血率は68%と全顎的に歯肉炎症を認めた。さらに,聴覚障害,軽度認知機能低下を認め,病態認識も乏しく歯科受診への理解が得られなかった。術前は,口腔管理の必要性を丁寧に説明し,開口制限,手指の巧緻性の低下を踏まえた口腔衛生指導を実施した。さらに,痛みへ配慮した口腔衛生管理を行った。
 同年11月,上顎部分切除術,頚部郭清術,上顎骨被覆術を施行,当科は術翌日より病棟にて口腔管理を開始した。患者の不快感軽減のためタフトブラシ等を用い,看護師と連携し愛護的にケアを行った。介入時は,聴覚障害や患者心理に配慮しつつ会話を重ねることで,徐々に信頼関係を確立し,歯科受診も好意的な姿勢へと変容した。術7日後の経口摂取再開にあわせてセルフケア指導を再開し,自宅退院以降はご家族へ歯磨き介助方法の指導も行っている。PCRは57%と依然高いものの,歯垢付着量は大幅に減少し,創部感染等の合併症も生じず経過している。2024年2月より放射線治療を追加することが決定し,引き続き口腔管理を継続する予定である。
 なお,本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。
【考察】
 高齢者の頭頸部がんの周術期口腔管理は,主疾患の治療の影響に加え,併存疾患や精神・感覚・運動機能の低下,環境要因など様々な背景から複雑さ,困難性が増加する。本症例では,様々な課題を踏まえ,まずはコミュニケーションに重点をおき,愛護的なケアを心がけたことが,周術期における患者の苦痛・不快感を軽減し,結果として患者との信頼関係の確立,継続的な口腔管理に繋がったものと考える。
 (COI開示:なし)(倫理審査対象外)