[特別講演1] 大規模新興ウイルス感染症COVID-19、SARS,エボラウイルス病、エムポックスと私たちの社会:大規模流行の背景と対策のあり方
【略歴】
1987年3月 旭川医科大学医学部卒業
1991年3月 旭川医科大学医学研究科(大学院)修了(医学博士)
1991年4月 名寄市立総合病院(小児科)
1994年4月 旭川医科大学付属病院(小児科)
1995年6月 JICAザンビア感染症対策プロジェクト専門家
1996年6月 旭川医科大学付属病院(小児科)
1997年4月 国立感染症研究所ウイルス第一部第一室(旧外来性ウイルス室)研究員
1999年4月 同ウイルス第一部主任研究官、第三室長、部長)
2007年11月 同ウイルス第一部第三室長
2010年10月 同ウイルス第一部長
2021年4月 札幌市保健福祉局・保健所医療政策担当部長
2023年4月 同医務・健康衛生担当局長
【教職歴】
岐阜大学獣医学連合客員教授、早稲田大学生命理工学部招へい教授、他
1987年3月 旭川医科大学医学部卒業
1991年3月 旭川医科大学医学研究科(大学院)修了(医学博士)
1991年4月 名寄市立総合病院(小児科)
1994年4月 旭川医科大学付属病院(小児科)
1995年6月 JICAザンビア感染症対策プロジェクト専門家
1996年6月 旭川医科大学付属病院(小児科)
1997年4月 国立感染症研究所ウイルス第一部第一室(旧外来性ウイルス室)研究員
1999年4月 同ウイルス第一部主任研究官、第三室長、部長)
2007年11月 同ウイルス第一部第三室長
2010年10月 同ウイルス第一部長
2021年4月 札幌市保健福祉局・保健所医療政策担当部長
2023年4月 同医務・健康衛生担当局長
【教職歴】
岐阜大学獣医学連合客員教授、早稲田大学生命理工学部招へい教授、他
【抄録(Abstract)】
新規ウイルスや既に知られていたウイルスによる世界規模の、または、地域的であっても大きな流行に至った感染症には、過去20年間で重症急性呼吸器症候群[SARS、SARSコロナウイルス1型(SARS-CoV-1)、中国]、エボラウイルス病[EVD、ザイールエボラウイルス(ZEBOV)、アフリカ西部]、ジカウイルス感染症[ZVD、ジカウイルス(ZIKV)、アジア地域からアメリカ大陸]、季節性インフルエンザのパンデミック(インフルエンザAH1N1pdm、AH1N1pdm、全世界規模)、中東呼吸器症候群[MERS、MERSコロナウイルス(MERS-CoV)、中近東および韓国]、新型コロナウイルス感染症[COVID-19、SARSコロナウイルス2型(SARS-CoV-2)、中国武漢市から全世界規模]、そして、アフリカ中央部や西部で地域的に流行していたヒトにおけるサル痘ウイルス感染症[エムポックス(MPX)、エムポックスウイルス(MPXV)、全世界的流行]などが挙げられる。日本では何度か日本で存在しないデングウイルスによるデング熱国内流行が発生している。
上記感染症の多くは動物由来ウイルス感染症である。SARS-CoV-1とSARS-CoV-2の宿主は中国またはアジアに生息するコウモリと考えられている。MERS-CoV、EBOV、MPXVの宿主は、それぞれヒトコブラクダ、オオコウモリ、ジリスなどのげっ歯類である。ZIKVやデングウイルス、AH1N1pdmはヒト由来ウイルスと考えてよい。動物由来ウイルス感染症の特徴として、ヒトからヒトへの伝播性(感染性)は低いものの、時に高い病原性を示すことが挙げられる。一方、インフルエンザAH1N1pdmやZVDの大規模流行の時のように、ヒト由来ウイルス感染症の場合、致命率が低いが、感受性のある人間社会に入り込むと、大規模流行に発展する。
現在,私たちは2020年からCOVID-19の大規模流行を経験している。COVID-19流行は、病原性は高いが伝播性の低いSARS-CoV-2武漢由来株による流行から、病原性は低いものの、伝播性の高まったSARS-CoV-2オミクロン株によるCOVID-19流行に置き換わっている。年単位の長期にわたる流行の間に、SARS-CoV-2遺伝子中に変異が蓄積され、その特徴に変化が生じた結果であるが、武漢株由来SARS-CoV-2によるCOVID-19流行が終息していることはとても望ましい状況と言える。
SARS、MERS、COVID-19、MPX流行は、それらの病原体が、単にそれぞれが流行している地域に存在するから発生しているのではなく、その地域の自然環境に存在すること、および、人々の生活様式や活動の在り方が人間社会に入り込む因子となって発生している。また、それらの流行拡大にも、私たちの生活様式や社会活動が大きくかかわっている。それだけに人への倫理的配慮が求められる。感染症流行対策は容易ではない。患者を封じ込めることによる感染症対策から、感染症対策の重要性と人間としての尊厳の尊重の重要性をともに踏まえた感染症対策に変えていくことが望ましいと考えている。
本講演ではこれまでの医師・研究者としての経験を踏まえて、新興・再興ウイルス感染症の流行機序と対策の在り方を、科学的・医学的な側面と社会医学的側面から解説したい。
新規ウイルスや既に知られていたウイルスによる世界規模の、または、地域的であっても大きな流行に至った感染症には、過去20年間で重症急性呼吸器症候群[SARS、SARSコロナウイルス1型(SARS-CoV-1)、中国]、エボラウイルス病[EVD、ザイールエボラウイルス(ZEBOV)、アフリカ西部]、ジカウイルス感染症[ZVD、ジカウイルス(ZIKV)、アジア地域からアメリカ大陸]、季節性インフルエンザのパンデミック(インフルエンザAH1N1pdm、AH1N1pdm、全世界規模)、中東呼吸器症候群[MERS、MERSコロナウイルス(MERS-CoV)、中近東および韓国]、新型コロナウイルス感染症[COVID-19、SARSコロナウイルス2型(SARS-CoV-2)、中国武漢市から全世界規模]、そして、アフリカ中央部や西部で地域的に流行していたヒトにおけるサル痘ウイルス感染症[エムポックス(MPX)、エムポックスウイルス(MPXV)、全世界的流行]などが挙げられる。日本では何度か日本で存在しないデングウイルスによるデング熱国内流行が発生している。
上記感染症の多くは動物由来ウイルス感染症である。SARS-CoV-1とSARS-CoV-2の宿主は中国またはアジアに生息するコウモリと考えられている。MERS-CoV、EBOV、MPXVの宿主は、それぞれヒトコブラクダ、オオコウモリ、ジリスなどのげっ歯類である。ZIKVやデングウイルス、AH1N1pdmはヒト由来ウイルスと考えてよい。動物由来ウイルス感染症の特徴として、ヒトからヒトへの伝播性(感染性)は低いものの、時に高い病原性を示すことが挙げられる。一方、インフルエンザAH1N1pdmやZVDの大規模流行の時のように、ヒト由来ウイルス感染症の場合、致命率が低いが、感受性のある人間社会に入り込むと、大規模流行に発展する。
現在,私たちは2020年からCOVID-19の大規模流行を経験している。COVID-19流行は、病原性は高いが伝播性の低いSARS-CoV-2武漢由来株による流行から、病原性は低いものの、伝播性の高まったSARS-CoV-2オミクロン株によるCOVID-19流行に置き換わっている。年単位の長期にわたる流行の間に、SARS-CoV-2遺伝子中に変異が蓄積され、その特徴に変化が生じた結果であるが、武漢株由来SARS-CoV-2によるCOVID-19流行が終息していることはとても望ましい状況と言える。
SARS、MERS、COVID-19、MPX流行は、それらの病原体が、単にそれぞれが流行している地域に存在するから発生しているのではなく、その地域の自然環境に存在すること、および、人々の生活様式や活動の在り方が人間社会に入り込む因子となって発生している。また、それらの流行拡大にも、私たちの生活様式や社会活動が大きくかかわっている。それだけに人への倫理的配慮が求められる。感染症流行対策は容易ではない。患者を封じ込めることによる感染症対策から、感染症対策の重要性と人間としての尊厳の尊重の重要性をともに踏まえた感染症対策に変えていくことが望ましいと考えている。
本講演ではこれまでの医師・研究者としての経験を踏まえて、新興・再興ウイルス感染症の流行機序と対策の在り方を、科学的・医学的な側面と社会医学的側面から解説したい。