一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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シンポジウム10
老年歯科医学教育の実態調査からみえてきたもの

2024年6月30日(日) 10:40 〜 11:40 第3会場 (中ホール)

座長:會田 英紀(北海道医療大学歯学部 生体機能・病態学系 高齢者・有病者歯科学分野)、伊藤 加代子(新潟大学医歯学総合病院 口腔リハビリテーション科)

企画:教育委員会

[SY10-1] 歯学生に対する老年歯科医学の講義および実習の実態

○伊藤 加代子1 (1. 新潟大学医歯学総合病院 口腔リハビリテーション科)

【略歴】
1998年 九州歯科大学卒業
2002年 九州歯科大学大学院修了
2002年 (財)長寿科学振興財団 リサーチ・レジデント
2005年 新潟大学医歯学総合病院 加齢歯科診療室 助教
2015年 新潟大学医歯学総合病院 口腔リハビリテーション科 病院講師

【専門医など】
日本老年歯科医学会,専門医指導医
日本口腔内科学会 専門医指導医
日本性差医療・医学会 定医
日本東洋歯科医学会 認定医
日本摂食嚥下リハビリテーション学会 認定士
更年期と加齢のヘルスケア学会 メノポーズカウンセラー
【抄録(Abstract)】
 日本老年歯科医学会教育委員会では,以前,全国の歯科大学および歯学部29校を対象として,2016年度の老年歯科医学の講義および実習の実態調査を行った.その結果,講義のコマ数や内容には大学間で偏りがあること,歯科訪問診療に関する実習の実施率は低いことなどが明らかとなった.また2020年に本委員会が実施したCOVID-19パンデミック下の大学教育アンケートでは,講義,実習共にCOVID-19感染症の影響を大きく受けていることが明らかになった.そこで,現状を把握すべく,2023年11-12月に,2020年度に改訂された歯科医学教育基準を用いて,2022年度の講義および実習の実態調査を行ったので報告する.
 回答は,29校全てから得られた(回収率100%).老年歯科医学に関する講義は全ての大学で実施されていたが,歯科医学教育基準の実施平均項目数は,総論134.6±12.4項目(92.8±8.6%),各論104.1±11.9(92.4±10.6%)であった.実施率は2016年度より増加していた.総論で最も実施率が高い項目は「顎・口腔の加齢変化」,各論では「リハビリテーション」であった.
 老年歯科医学に関する教育の平均コマ数は36.2±21.0コマであった.学年別の実施状況では,2016年度,2022年度ともに4年次での講義の実施数,科目数,コマ数がすべて最も多くなっていた.使用している書籍で最も多かったのは,「老年歯科医学」「よくわかる高齢者歯科学」が同数で21校(72.4%)であった.
 老年歯科医学に関する実習を実施しているのは28校(96.6%)で,2016年度と比較すると増加していた.平均実施コマ数は,12.3±10.2コマで,2016年度より減少していた.学年別では5年次の実施が15大学(5.7%)と最も多かった.実習内容は,介護技術,摂食嚥下リハビリテーション,口腔低下症の検査等に関するものが多かった.コロナ禍のため,2022年度は体験型の実習を中止している大学もあった.歯科訪問診療に関する実習を実施しているのは22校(75.9%)で,2016年度より減少していた.平均実施コマ数は,4.0±10.2コマであった.コロナ禍のため中止している大学や,オンラインでの実習を取り入れた大学もあった.現在,本学会作成の診療参加型臨床実習マニュアルを使用しているのは,半数以下にとどまっていたが,約3割が導入予定と回答していた.
 老年歯科医学教育を実施するうえで改善したいこととしては,コロナ禍でも実施できる実習の検討(10校,34.5%)が最も多かった.特筆すべき取り組みとしては,オンラインによる訪問診療の見学や動画の閲覧などが挙げられていた.日本老年歯科医学学会に期待することは,モデルコア・カリキュラムに準拠した書籍やマニュアル作成(8校,27.6%),動画の作成(6校,20.7%)となっていた.
 シンポジウムでは,調査結果について概説するともに,今後の課題を提示する予定である.