一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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シンポジウム11
「地域で最期まで支える」を実現するための覚悟とスキル

2024年6月30日(日) 13:10 〜 15:10 第2会場 (特別会議場)

座長:菊谷 武(日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック)、猪原 光(医療法人社団敬崇会 猪原[食べる]総合歯科医療クリニック)

企画:在宅歯科医療委員会

[SY11-4] 在宅歯科医療委員会 シンポジウム
「地域で最期まで支える」を実現するための覚悟とスキル
『看取りの後に私たちのできること』

○大堀 嘉子1 (1. 株式会社 紫恩)

【略歴】
日本女子衛生短期大学(現:神奈川歯科大学付属短期大学部)卒業後、東京都立心身障害者口腔保健センターにて勤務.介護支援専門員と介護福祉士を取得し、認知症高齢者グループホームや小規模多機能ホームに携わる.
2015年 おくりびとアカデミー認定納棺士を取得.

【抄録(Abstract)】
 人が最期を迎えるとき、家族は“安らかな死”を願い、支援に携わってくれた専門職らとともにその出来事を受け止めていきます。専門職である医療・介護従事者は“死”が確認されたあと、エンゼルケアを最後に役割が終了し、その先の業務は納棺師を含む葬祭業に託されます。生前は、担当する職種や事業所が変わる度、詳細にわたる情報提供がありますが、亡くなった後は故人についての情報を申し送られることがないため、ご遺体がどのような状態なのか殆ど知らされないまま引き継がなくてはならない現状があります。
 通常、亡くなった人は、ドライアイスなどを使って身体を冷却するため、体内に存在する細菌は活動を停止し、火葬までの間腐敗を防ぐことができます。口腔内も細菌数が多く腐敗の原因になりやすいのですが、口元をドライアイスで直に冷却することができないため、腐敗をさせないための配慮が必要になります。口腔内の腐敗や汚れが原因となる異臭は、遺族が故人に寄り添うことを阻み、時としてお見送りまでの限られた時間を奪うことにもなります。
 この“口の汚れ”は亡くなった後に対処する方法もありますが、実は生前の口腔ケアが亡くなってからも大きく影響してきます。納棺師は、鼻腔や口腔内の処置として希釈した次亜塩素酸ナトリウム液を使用し清拭を行いますが、葬儀の際必ず納棺師が手配されるわけではなく(葬儀のプランなどにより手配されないこともある)、生前のかかわりの中で口腔ケアが十分なされていることが要となってきます。
 「最期まで口がきれい」であることは、起こりうるご遺体の変化を防ぎ、安らかなお顔で旅立つことへの手助けとなります。納棺師として活動するなかで、死後に起こるご遺体の変化に“口のきれいさ”が大きく影響することを学び、その変化を最小限に食い止めることが遺族のグリーフケアにつながることを知りました。そしてそれは、故人の尊厳を守ることでもあります。
 今回、歯科衛生士と納棺師、両方の立場からかかわった事例について、ご遺族より「ぜひお話してください」と快諾を得られましたので、死後の変化を想定した対処の一例を紹介させて頂きます。最期まで口がきれいであることの意義と歯科のかかわりについて皆様と一緒に考えていけましたら幸いです。