一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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シンポジウム2
脳を基礎から理解する

2024年6月29日(土) 08:50 〜 10:10 第2会場 (特別会議場)

座長:金澤 学(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 口腔デジタルプロセス学分野)、黒嶋 伸一郎(北海道大学大学院歯学研究院 口腔機能学分野 冠橋義歯補綴学教室)

企画:学術委員会

[SY2-3] 口腔がアルツハイマー病の発症に関係するメカニズム

○後藤 哲哉1 (1. 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 歯科機能形態学分野)

【略歴】
1988年 九州大学歯学部 卒業
1992年 九州大学大学院歯学研究科 修了
     九州大学歯学部歯学部附属病院・医員(小児歯科)
     九州大学歯学部口腔解剖学第一講座・助手
     ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)ポスドク
1994年 トロント大学(カナダ)ポスドク
1996年 九州大学歯学部口腔解剖学第一講座・助手 復職
2001年 九州歯科大学口腔解剖学第一講座・助教授
2014年 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科
     歯科機能形態学分野・教授
2024年 鹿児島大学・歯学部長
【抄録(Abstract)】
 近年、医療の発達で平均寿命が長くなったため、認知症の問題が顕在化してきた。認知症は遺伝子変異が認められる若年性認知症を除いては、高齢者で生じる糖尿病や高血圧のような生活習慣病の一種といえよう。
 アルツハイマー病(AD)を主とする認知症は100年以上前から報告されており、その組織的な病態として早くから、アミロイドβを主とする老人斑とリン酸化タウの細胞内の集積である神経原線維変化がその病変の特徴であることが認められた。また、脳の萎縮は海馬など認知機能に強く関わる場所のみならず脳全体に萎縮が認められることも特徴である。
 生活習慣病と共に医科の方で注目されてきたのが、運動機能の老化であるフレイルである。フレイルは口腔領域でも顎運動や嚥下機能の低下として認められオーラルフレイルと呼ばれる。このオーラルフレイルに感覚や唾液分泌などの低下を含めて総称したものが口腔機能低下症である。従って、近年高齢者の歯科治療に関しても、特に地域包括医療として医科とともに認知症に対応する、もしくは予防するには脳を含む神経系を理解することが必要となった。
 大脳皮質は中心溝、外側溝等によって前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分けられ、溝と溝によって区切られた部分を回という。この回は部位によってその機能がわかれており、これを機能局在という。さらには、認知機能などの複数の部分が共同して働いているものを特に高次脳機能と呼び、ヒトでは他の動物よりも前頭葉で発達している。さらに脳には本能的な機能を持つ大脳辺縁系と呼ばれる部位があり、ADに関連が高い海馬や扁桃体と呼ばれる部位が存在する。
 口腔と認知症特にADとの関係で、ADのリスクファクターとして指摘されているのが歯周病と残存歯数であるが、この2つに共通しているのが歯の喪失である。口腔が認知症発症に影響するセオリーとして大きく4つのパターンが報告されている。歯周病菌が直接血流に運ばれて脳に運ばれる、歯周病菌が出すサイトカインが脳に働く、歯の喪失等によって脳内への血流の減少が生じる、歯の喪失による神経変性の連鎖によって海馬などの脳の特定の部位の神経変性を生じる、である。認知症の発症は遺伝子変異に伴う家族性の認知症の割合は低く、多くは多因子より発症する孤発性である。しかも、孤発性の場合、多くは70から80歳以上で認知症は発症する。通常、認知症は認知機能低下期をへて認知症に移行するが、一度認知症になると認知機能低下が早く進行し、不可逆的になり、最後は運動機能も低下し、誤嚥性肺炎等を発症し、死に至ることが多い。
 この講演では、口腔機能と脳機能、特に中枢の認知に関わる部位との関係を解説し、口腔ケアでどのようなことに気をつければ認知症の発症を遅くすることが可能か解説する。