The 35th Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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シンポジウム3
日本歯科心身医学会提案シンポジウム 高齢者での歯科心身症とその対応

Sat. Jun 29, 2024 10:20 AM - 11:40 AM 第2会場 (特別会議場)

座長:安彦 善裕(北海道医療大学 生体機能・病態学系臨床口腔病理学分野)

企画:大会長

[SY3-1] 高齢者の歯科心身医療;「高齢先進国モデル」の確立に向けて

○豊福 明1 (1. 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学系専攻 全人的医療開発学講座 歯科心身医学分野)

【略歴】
1990年3月 九州大学歯学部卒業
1990年4月 福岡大学医学部歯科口腔外科学教室入局
1992年10月 福岡大学病院助手(歯科口腔外科)
2001年4月 福岡大学病院講師(歯科口腔外科)
2007年3月 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 歯科心身医学分野 教授(現在に至る)
【抄録(Abstract)】
 従来いわゆる歯科心身症は中高年に多いとされ、我々も比較的早期から高齢患者への対応には馴染んではきた。しかし、我が国の社会の超高齢化や経済面も含めた世相の変化は「通常の身体疾患の枠に収まらない患者」には保険診療が置き去りにされたまま、むしろ厳しい医療状況をもたらしている。
 舌痛症、非定型歯痛といった慢性疼痛やPhantom biteといった咬合関連の愁訴は、加齢による予備能の低下と患者の基礎疾患や常用薬の増加に伴い薬物療法は困難になる。また心の柔軟性が失われていく高齢者に心理療法の適用は困難となりやすい。さらに口腔セネストパチーは明らかに高齢者に多く、脳の加齢的変化を伴っていることも示唆され、もともと難治性の上に前述の諸条件が重なりさらに治療が難しくなる。
 高齢者の歯科心身症では、口腔症状の評価の際に口腔がんの見落としなどに細心の注意が求められる。経過中に思わぬ他科疾患を併発することもあり、日頃の基礎疾患の情報共有に加え、早期に患者の異変に気づき、適切な対診など医科との連携はますます重要になる。薬物療法では、すでに各科の多剤併用の中、必要最小限で最大の効果が狙える処方を心がけている。副作用、特に認知面への影響には高度の注意が求められる。心理社会的背景の把握と、特に認知機能の低下した患者では家族やキーパーソンの協力も不可欠である。特にメンタルの問題が絡むと多くの医療者は敬遠しがちとなる。患者のみならず家族や地域も含めたシステムとして調整を要する場合もしばしばある。もはや昭和・平成の先達のように採算度外視で、このような歯科診療を維持することは極めて困難と言わざるを得ない。
 歯科心身症の診断の要諦は「口腔感覚・認知の歪み」にあり、歯科的素養の少ない他科医師には口腔内の器質的疾患の除外も含め、その患者の感覚・認知がどの程度の歪みなのかの判断は難しい。本症に歯科医師が主体的に関わらざるを得ない所以である。老年歯科医学と同様、歯科心身医学にもお手本となる諸外国の先行例は皆無で、「日本はこんな答えを出した」という「高齢先進国モデル」(武藤真祐、「医の力」、PHP研究所)が求められている。
「元気で虫歯だけ」から、Multimorbidity(多疾患併存)となり心理社会的背景も複雑化した高齢者の増加に対応しきれず、歯科界は迷走している。どうすればこのような患者層を救済できるのか、誰かが考えねばならない。しかし、従来この問いに向き合ったはずの多くの学問が、今ことごとく目を逸らしているように見える。歯科心身医学の出番だと思う。