一般社団法人日本老年歯科医学会 第35回学術大会

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シンポジウム7
地域特性を踏まえた多職種連携深化のためのチップス

2024年6月30日(日) 09:00 〜 10:30 第2会場 (特別会議場)

座長:佐々木 健(北海道釧路総合振興局 保健環境部 保健行政室(釧路保健所))、平野 浩彦(東京都健康長寿医療センター)

企画:支部運営委員会

[SY7-1] 歯科訪問診療と多職種連携をめぐる光と影
経験から伝えたいこと

○森田 一彦1 (1. 森田歯科医院)

【略歴】
1980年 日本歯科大学 卒業
    地域の歯科医院に勤務
    浜松医科大学歯科口腔外科研究生(1999年まで)
1983年 浜松市で開業し現在に至る

現在  地元の保育園、中学校の校医、浜松歯科衛生士学校非常勤講師、日本歯周病学会 病院介護研究会、全国訪問歯科研究会(加藤塾)、在宅医療連合学会 NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク、日本老年歯科学会評議員、専門医、指導医、日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 認定士
【抄録(Abstract)】
 歯科保健医療の原点は食べられるようになって幸せを実感してもらうことにある。う蝕や歯周処置、義歯の管理及び口腔ケアはそのための手段である。特に要介護高齢者にとって、食事は生活の中で大きな楽しみであることから、「義歯をつくったらサヨウナラ」は回避するよう努め、食べることの支援に重点を置いてきた。このことを共有できるよう心掛けて多職種連携を進め、連携のあり方やメリットが見えてきた症例を紹介する。

介護施設でほぼ寝たきりで多数歯のう蝕が放置されていた入所者に「自分の口でおいしく食べたい」とささやかれたことをきっかけに、長期間何度も訪問し、常食がおいしく食べられるようになり、治療前のパワーレスのような生活が一変し、施設の行事にも積極的に参加するなどエンパワーした事例も紹介したい。ただし、成功事例ではなく、その後、施設職員の「元気にしています」「自分で磨けていますから大丈夫」ということばを鵜呑みにしたために、継続的にメンテナンスする機会を逸し、9年後に口腔崩壊を招いてしまい、継続的な関わりの必要性を学習した苦い経験といえる。
 現在も、食支援を中核に多職種連携のもと継続的に口腔を管理することを信条に訪問診療に従事しているが、病院や介護施設等とそこそこ良好な連携ができても、諸事情により結局は応急的な処置が中心で終わってしまうことが多い現実もある。病院、施設及び在宅のフィールドで、多職種連携・協働のもと、一時的・断面的な支援でなく、急性期(救急を含む)から慢性期、終末期までカバーする継続的な口腔管理で地域住民の生活を支えるにはどうしたらよいのか、など悩みは尽きない。
 関連して、日ごろから次のような問題意識もある。
・なぜ、訪問診療訪問歯科衛生指導や居宅療養指導等を含む)に従事する開業歯科医
 や歯科衛生士が増えないのか。多職種連携に不安があるのか、採算(労力に見合う
 収益が得られない)の問題なのか。
・なぜ、歯科医師や歯科衛生士にとって多職種連携が難しいのか。
・訪問診療に複数の歯科医師がチームとなり対応できないものか。
 要介護高齢者の歯科保健医療ニーズは、量的にも質的にも、一部の少数の歯科医療従事者で抱えきれる水準を超えており、地域包括ケアの中で歯科が責務を全うするには、地域住民全体を対象とした組織的なかりつけ歯科医機能が求められている。
最適解を求めて、みなさんと一緒に考えていきたい。