[指定1-4] 誤嚥性肺炎で入院中の90歳代高齢患者への退院支援 家族間で意見の相違があった事例
【事例紹介】誤嚥性肺炎で3次救急搬送された90歳代男性A氏。初期治療で全身状態が安定し、ICUへ入室となった。ICU入室後のA氏の意識レベルはJCS1-1~2、痰の自己喀出が行いきれず、痰が貯留してくるとSpO2の低下があり、その度に気管支鏡による気管内吸引の実施が1~2回/日で続いていた。家族構成は、妻はすでに他界し息子B氏(60歳代)と二人暮らしだが、出張が多くほとんど不在。娘も2人おり(C氏、D氏、共に60歳代)、それぞれ近くに住んでいる。D氏が週に数回自宅へ通い、A氏の身の回りの世話をしている。キーパーソンはB氏。医師から家族へ救急搬送された意識障害は、誤嚥性肺炎が原因の一つであること、痰の量も多く毎日気管支鏡で痰の吸引を行っており、治療の選択肢の一つとして経口挿管の説明があった。B氏は「できる治療は全部やってできるだけ父さんに長生きしてほしい。」と話した。同席していたC氏は無言だったが、D氏は「いつも父さんを見ているわけじゃないのになんてことを言うの。父さんは延命になることはしたくないと言っていた。家で過ごしたいはず。」と強い口調で話した。【対応を要した課題】本人の意思を尊重した治療方針の決定を支援することで、家族間での意見の合意が行え、今後の療養先が決定できる。【看護実践内容】 A氏の意思が明らかではなかったため、A氏の意識レベルのよい時間帯を選び、医師からの説明に対する家族の反応を伝えるとともに、A氏はどうしたいと思っているのか尋ねた。A氏は「辛いから口に管なんか入れたくない。それよりも早く家に帰って過ごしたい。」と話した。同日、面会にきたB氏へA氏が挿管はしたくない、家に帰りたいと言っていることを伝え、同時に、家族間での意見の相違があるのに、話し合いをせずに自分の考えを押し通そうとするのは何故か率直にぶつけてみた。B氏は、他界した母親を数年間在宅介護していたがもっと何かできたのではと心残りがあること、今の仕事が軌道に乗り始めており、父親にも自分が成功しているところを見てもらいたいと思っていると話した。B氏の思いを理解できたところで、今後のことはA氏の意思も考慮した上で、家族で話し合って決めてほしいと伝えた。翌日B氏から「昨日看護師さんに話して自分の1人よがりだったかなと思った。妹たちとも話して挿管はせずに、本人の言うように家に連れて帰りたいと思う。」と話した。自宅退院が可能かどうかを含め多職種カンファレンスを実施し、自宅への退院調整を行い3日後に退院となった。【考察】 ICUでは、特に治療方針の決定を含め退院調整を行うまでの時間的余裕が少ないことが多い。限られた環境下の中でも本人や家族への理解を深める努力を行いながら、治療の可否にとらわれずに本人が“どう生きたいか”を家族と医療者が共に見出すことが重要であると考える。