[EL2] 過大侵襲下にある患者の体液管理の考え方
輸液の起源は割愛しますと、1832年にイギリスのThomas Aichison Lattaが塩化ナトリウム0.5%と炭酸水素ナトリウム0.2%を含む製剤をコレラの治療に投与したのが電解質輸液の始まりとされています。しかし、脱水と電解質異常は改善されても、敗血症で不幸な転帰を辿る患者も数多くいました。その後、半世紀以上の1883年にSydney Ringerが塩化ナトリウムの他にカルシウムやカリウムを配合したリンゲル液を開発し、輸液の歴史に大きな変革が起こしました。それから半世紀後(1932年)には、Alexis Frank Hartmannがリンゲル液に乳酸ナトリウムを加えた乳酸リンゲル液(ラクテック)を開発しました。現在は乳酸リンゲル液に酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液が加わり、補充輸液の選択幅が拡大しています。何れにせよ、これらは侵襲時の細胞外液の補充やアシドーシス補正も可能であるため、急性期の不可欠な基礎的輸液製剤として現在も尚、汎用されています。
他方、我が国には、我が国独自の輸液分類と呼称があります。それが、1号液(開始液)、2号液(脱水補給液)、3号液(維持液)、4号液(術後回復液)です。つまり、細胞外液を補充する基礎的輸液製剤には、「ゼロ号輸液」ということになります。
本教育講演では、先述の歴史を踏まえながら侵襲下にある患者に対する体液管理の考え方とその際、看護師がおさえるべきポイントについて概説します。
侵襲が加わると、組織のダメージによって、毛細血管透過性亢進が惹起され、水分とナトリウムがthird spaceへ移動し、非機能的細胞外液域(浮腫)を形成します。透過性の亢進度が高い場合にはアルブミンの移動が起こります。その結果、血管内細胞外液量の減少が起こり、hypovolemiaの状態になります。その時、患者は血圧低下(脈圧の狭小化)、頻脈、乏尿を呈するようになります。それに対して、血管内体液の不足分を循環動態の安定と適正尿量が得られるまで、細胞外液に近い組成のクリスタル輸液による補充輸液を行います。その後、third spaceに貯留した非機能細胞外液は、血管内へrefillingされ血圧の上昇(脈圧の増大化)、尿量増加が訪れます(利尿期)。この時期には、過剰な前負荷を避けるために補充輸液量を徐々に減少させながら、K増量とNaの減量を図りつつ、維持輸液へ変更し、以降は水・電解質の平均的必要量の輸液となります。
臨床下、輸液療法を実践するとき、看護師は実に多くの観察とモニタリング、呼吸・循環・腎機能・体液バランスなどのアセスメント、輸液管理に係わるスキルが求められます。また、そのプロセスでは、いつもピットフォールへ陥るリスクが付きまとっていますので、周到な安全管理も必要です。それが、クリティカルな患者の場合には、より複雑化、微細性が求められるため、一層の精密・濃密化による輸液管理の実践が提供されなければなりません。