第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

Presentation information

一般演題(口演)

一般演題(口演) O2群
看護実践・管理

Sat. Jun 30, 2018 2:30 PM - 3:30 PM 第5会場 (2階 平安)

座長:樅山 定美(いわき明星大学 看護学部), 座長:山崎 早苗(東海大学医学部付属病院 集中治療室)

[O2-3] 嚥下困難であった患者が多職種による統一したケアによって経口摂取が可能となった一事例

三浦 麻紗美, 近藤 美穂 (広島大学病院看護部)

【目的】嚥下困難の患者が経口摂取ができるまでの過程を振り返り、医療者の統一したケアが嚥下機能回復につながったかを検証する。【方法】・研究対象期間:平成28年2月~6月・研究対象者:食道癌(ステージIII、術後4年経過)のA氏、難治性潰瘍で約2か月間絶飲食中に呼吸状態が悪化し、気管切開術施行、人工呼吸器管理中であった。潰瘍が軽快し飲水可能な状態になったが、長期間の絶食による低栄養、筋力低下による嚥下機能低下を認め、経口摂取開始を目的に介入を始めた。・データ収集方法:診療録から現病歴、治療、栄養、身体状態、ADLの状況、患者の訴え、看護ケアの項目について時系列にデータ収集を行った。・倫理的配慮:所属施設の看護部倫理委員会の承認を得て実施した。【看護の実際】患者はベッド上でテレビを見て一日を過ごし、リハビリも消極的で妻の面会時もその様子は変わらなかった。本人・妻は「食べられるようになりたい。元気になり自宅に戻りたい」と回復の希望があった。そこで看護師・主治医・理学療法士でカンファレンスを行い、1.低栄養、2.長期の経口挿管・気管切開による嚥下機能の低下、3.全身の筋力低下の3点の課題を共有し、経口摂取開始を目標に1.NST(Nutrition Support Team)が介入し適切な経腸栄養剤の選択と評価、2.唾液のたれ込みが多いため、摂食嚥下障害看護認定看護師の助言の下、嚥下体操を毎日実施、3.清拭を端座位で行う等端座位時間を延ばす、理学療法士による座位練習、立位・足踏み練習の実施を計画した。患者家族に現状と、口から食べるために飲み込みの練習や筋力をつけるリハビリを行うことを説明し同意を得て、目標を共有した上で実践した。ケアは医療者が統一して実施できるよう定期的にカンファレンスを行い、現状を把握・評価、実践を繰り返し行った。【結果】1.NSTへ介入し適切な栄養管理を行うことで、NST介入から49日でTP:5.4→6.7g/dL、Alb:1.9→2.7g/dLと栄養状態の改善を認めた。2.医師の許可の下、とろみ水の飲水が開始となった。カフ上吸引時に水が吸引できる時があり少量の誤嚥を認めたが、呼吸状態の悪化はなかった。その後嚥下機能の改善とゼリー摂取に向けて嚥下体操を開始した。嚥下体操開始7日目で1日1回ゼリー摂取を開始し、むせなく摂取した。3.A氏は次第にリハビリを自ら取り組み、ケア開始20日目で端座位時間の延長や足踏み回数の増加ができ、段階的にリハビリ内容のステップアップを図った。同時にウィーニングを進め、ケア開始から24日目で人工呼吸器を離脱することができた。看護師はA氏の頑張りを認め、ケアを継続した。【考察】先行研究や文献では、食べることは生きる意欲や楽しみ、幸福をもたらすものであり、QOLの向上につながるとある。実際にA氏は経口摂取に対する希望を持っていたが、低栄養・嚥下機能低下・全身の筋力低下による意欲の喪失状態であった。ケア介入により飲水が開始となったことで、本人は日々の嚥下体操やリハビリの効果を実感し、飲水だけでなく経口摂取の意欲が向上し、さらに積極的にリハビリに取り組んだ結果、経口摂取と人工呼吸器離脱に結びついたと考える。また本人の回復を喜ぶ妻の姿を見てさらに意欲的にリハビリ等に取り組んだことも、本人の回復を助長していると考える。  今回の事例では、患者家族の「食べたい」という意思を尊重し、目標達成に向けて患者家族とともに課題抽出・計画立案し、多職種が連携し統一したケアを継続することにより、嚥下機能の改善を認めたと考える。【結論】患者と家族の意思に沿った多職種による統一したケアを行うことで、A氏は誤嚥することなく経口摂取ができた。