[O4-6] ICUの看護師が終末期において抱える困難感とその関連要因
【研究背景】 日本の集中治療室は設置基準として、「内科系、外科系を問わず呼吸、循環、代謝そのほかの重篤な急性機能不全の患者を収容し強力かつ集中的に治療、看護を行うことにより、その効果を期待する部門である」と定義され、ICUの看護師に求められるのは、重症患者の看護という専門知識と看護実践である。一方、高齢者に対してもICUで集中治療が行われ、救命や回復するようになってきた。しかし、疾患の複雑化により、集中治療を行ったにもかかわらず、死亡する患者は17%と報告され、患者の死は避けられない。課題は、ICUは患者の救命のための専門領域であり、看護師は集中治療における看護実践を行っている一方で、治療の効果が得られずに、死の経過をたどる患者の終末期ケアの実践を同時に求められていることである。【研究目的】 ICUで終末期ケアに関わる看護師が抱える困難感と、その関連要因を明らかにする。【研究方法】・研究デザイン:質問紙調査による量的研究・研究対象者は日本集中治療医学会が集中治療専門医の養成の施設として認定を受けているICU(救急救命センター併設を含む)部門において勤務する看護師・質問用紙:基本属性、ICU看護師の終末期ケア困難感尺度:Kinoshita・Miyashita(2011)が作成した尺度を採用。ICUで働く看護師の患者の死の捉えかた:15項目。・データ収集方法:質問紙郵送法・倫理的配慮:本研究は所属大学倫理委員会の承認を得た上で実施した。 質問用紙は無記名での回答とし自由意志での参加であることを書面に記載し質問用紙を配布し、質問用紙は個別に封筒に入れ、郵送法で回収を行った。・データ分析方法:対象者の基本属性、「ICU看護師の終末期ケア困難感尺度」、「ICUで働く看護師の患者の死の捉えかた」の記述統計とMann WhitneyのU検定または、Kruskal Wallis 検定を実施し各群間の平均値を比較した。【結果】 6施設224名のICUで勤務する看護師に質問用紙を配布し、その結果、48名から回答(回収率21.4%、有効回答率100%)を得た。看護師の臨床経験年数は10.5±6.5年(平均値±SD)、ICUの経験年数の7.4±5.0年。看護師臨床経験のうち、ICU経験のみの看護師は22名で病棟経験がある看護師は26名であった。臨床経験0~4年の看護師は、【終末期ケアに自信を持つことに関して】の7項目のうち6項目において、10年以上の看護師より有意に高値であった。ICU経験のみの看護師は、【終末期ケアに自信を持つことに関して】の7項目のうち、5項目において、一般病棟の経験のある看護師より有意に高値であった。【考察】 10年以上の経験のある看護師は、ICUでの経験と知識が充実し、重症患者と家族と関わり、患者の死に何度も立ち合う経験をしていると考えられる。経験がそれ以下の看護師と比べ、終末期ケアに自信を持つことに関する困難感が低減していたと推測される。一般病棟の経験のある看護師は、日常から患者、家族とコミュニケーションをとっているが、ICUの患者の意識がないことや人工呼吸器管理など、意思疎通が取れないことも多い。さらに、家族とのコミュニケーションや信頼関係は時間や場所が限られることから、ICU経験のみの看護師が困難感を抱く要因となったと推測された。ICUでの終末期ケアは病棟と異なり、死に至るまでの時間が短い。しかし、患者が亡くなるまでのわずかな時間でも、家族に対して患者を悔いなく看取るためのケアは必要であると捉える看護師が困難感を抱くことにつながると推測する。