第14回日本クリティカルケア看護学会学術集会

講演情報

一般演題(口演)

一般演題(口演) O9群
せん妄ケア

2018年7月1日(日) 13:40 〜 14:40 第4会場 (2階 福寿)

座長:木下 佳子(NTT東日本関東病院 集中治療部), 座長:始関 千加子(日本医科大学千葉北総病院)

[O9-4] 記憶のゆがみ予防の看護ケアバンドル導入後における記憶のゆがみの変化

那須川 敏行, 白浜 伴子, 木下 佳子, 由井 多希, 原田 夏実, 米持 幸恵 (NTT東日本関東病院)

【目的】ICU入室患者は重篤な疾患や侵襲的な治療により身体的、精神的苦痛を感じている。ICUでの辛い体験の記憶、あるいは記憶の欠落はICU退室後も患者を苦しめPost-Traumatic stress disorder(PTSD)や抑うつ状態となり患者のQOLを著しく低下させる。そこで、記憶のゆがみ予防の看護ケアバンドルを実践することにより、記憶のゆがみを改善する効果について明らかにすることを目的とした。
【用語の定義】記憶のゆがみとは、記憶の欠落、混乱した感じ・落ち込んだ感じ・不安や恐れなどの不快な感覚、いじめられたなどの被害的な体験、幻覚妄想など非現実的な体験を1つでも有したものとする。
【方法】対象:ICUに48時間以上入室した患者。そのうち、脳血管疾患や認知障害がある患者は除外した。研究期間:ケアバンドル導入前2016年6月1日~2017年1月19日導入後2017年1月23日~2017年9月15日ケアバンドルの作成と遵守:記憶のゆがみやせん妄を引き起こす要因についての先行研究をもとに、音や光の調整、感覚障害の矯正、早期モビライゼーションなど全8項目を設定した。患者を受け持つ看護師は、その項目の遵守状況についてチェックリストを使用して、勤務帯ごとに遵守の有無を記録した。バンドル導入前には、スタッフに十分な説明を行った。調査方法:ICU退室後訪問を行い、ICUメモリーツールを参考に作成した調査票をもとに、「記憶の欠落」「混乱した・不安・落ち込んだ感じ」「いじめられたなどの体験」「幻覚妄想などの非現実的な体験」の有無を尋ねた。バンドルの遵守状況については、チェックリストごとに集計を行い、統計的に分析した。統計ソフトはEZRを使用した。
【倫理的配慮】データは個人が特定されないようコード化しプライバシーの保持に努めた。研究施設倫理委員会の承認を得た。
【結果】バンドル導入前の対象は59名(男43名)、バンドル導入後は56名(男36名)であった。患者の内訳は、導入前群は年齢72歳(66.0~77.0)心臓血管外科31名、消化器外科19名、その他9名。導入後群は年齢71歳(63.7~76.5)心臓血管外科39名、消化器外科10名、その他7名であった。バンドルの遵守率は、1.事前説明61.6%、2.愛用品使用4.9%、3.光の調節99.1%、4.音の調節97.5%、5.疼痛コントロール99.3%、6.日時の認識95.5%、7.感覚器補正27.6%、8.早期離床68.2%であった。バンドル導入前の記憶のゆがみを呈したのは61.0%であり、導入後は44.6%であった。記憶のゆがみの項目の内訳は、1.記憶の欠落:導入前25.4%、導入後37.5%、2.不快な感覚:導入前25.4%、導入後23%、3.被害的体験:導入前8%、導入後7%、4.非現実的な体験:導入前30.5%、導入後17.8%であった。ケアバンドルを導入することによって有意差はなかったが、記憶のゆがみは減少し、特に非現実的な体験の減少が見られた。
【考察】看護ケアバンドルの中で音や光の調節に対する遵守率が高く、患者の夜間の環境を整えることで記憶のゆがみ、特に非現実的な体験が減少したと考えられる。患者への事前説明はバンドル導入前に全く行っていなかったため、記憶のゆがみの減少に関与した可能性がある。愛用品の使用率が低いため、徹底することで記憶のゆがみに変化が見られるか再検する余地がある。